黄昏ハロウィン

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パンプキンが屋敷の中に戻ると、家具の影からドラキュラ執事が現れ、手を出した。パンプキンはその手に日傘を渡す。そして、クツクツと笑った。 「あれぁ、もう少しここにおく必要がある。今、死なれてももったいないだけだからな」 その声を耳にしたナイトは息がとまり、身体中の筋肉が強張るのを感じた。 やっぱり帰してもらえないんだ。 鼓動が早くなり、胸に当てた手が小刻みに震えた。 「けれど、そろそろ警察が嗅ぎつけるかもしれません」 「なぁに、その時には隠してしまえばいい。地下に部屋はいくらでもあるからな。もしそうなったらよろしく頼む」 執事は黙って頭を下げる。 ナイトは離れていく彼女の背中を瞬きもせずに見つめながら思った。 あの毛虫のように死にたくない。 それでも、この屋敷にいる限りは、逃れられない。そう確信した。 ふと右手に鉈を持ったままであることに気づいた。 湧き上がったこの気持ちは何と言うのだろう。 執事と共に、入り口から背を向けていたパンプキンは、襲いかかったナイトを、華麗に避けた。 ナイトは影の多いこの部屋では彼女の表情がよく見えないが白い歯だけは、はっきりと見えた。 笑っているのだ。 仕留めそこね、もう一撃を狙う。 しかし、振り上げた腕はあっさりと掴まれ、手首を捻られ、鉈は床に落ちた。 パンプキンは優雅に鉈を拾いあげ、もう一度白い歯を見せて笑う。 視界の隅で、僅かに表情が揺れた執事が見えた。 二つの足音が屋敷に響く。 ナイトは手足を千切れんばかりに振り、玄関へと走る。やっとのことで重厚な金のドアノブを掴んだが、開かなかった。踵を返し、再び屋敷の奥へと走る。 しかし、食事と菜園でしか部屋からでなかったことがなく、どこに何の部屋があるかわからなかった。 窓から、燃えるような夕焼けが差し込む廊下の奥からヒールの音が追いかけてくる。絵画たちも自分の行方を報告しているような気がしてならなかった。 息があがり、口の中は血の味がする。それでも、足は止まらなかった。 やがて、ナイトは上へ上へと登り、扉を開けるとそこには、真っ赤な太陽が正面にあった。最上階に達してしまったのだ。 「鬼ごっこは終わりだぞ、ナイト」 後ろから声がかかる。 ナイトは思わず後ずさりした。パンプキンが徐々に近づきながら、笑っている。 背中が石造りのベランダにつき、ひやりとする。もう後ろはない。首を左右に振りながら逃げ道を探す。 ーーーだって、だって。 という声が内から響いた。ただ、ヒリつく喉の痛みと、焦りで言葉にできない。 「なぜ?」 パンプキンの言葉が頭に響いた。 「僕は生きたいんだ!僕は…」 パンプキンがナイトに近づいてくる。 そして、ナイトの頭上に手をかざした。 ナイトの頭のなかで誰かが通りすぎる。 髪を振り乱し、細い影を振りかざす女。 そうだ。これは手だ。 あれ?なんだっけ? あれ?胸が痛いのはなんでだろ? 死に迫られたのとは違う感じ。 焦げるようにではなく、切り裂かれたようは痛み。 ーーごめんなさい ーーごめんなさい ーーごめんなさい あれなんだっけ? パンプキンはその手でナイトを抱きしめた。 血の通う、温かみが少年の体を包んだ。 「ごめんな。お母さんは助けられなかっんだ」 現実という記憶がナイトを刺した。
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