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鈴の人
「帰るの遅くなっちゃってごめんね……」
「ううん、気にしないで! 同じ方向だしいつも一緒に帰ってるんだからいいの」
二つの小さな影が賑わう街中を進んでいく。
今日あったことを互いに話して、笑って、帰り道を歩いていた。
ふと、遠くの橙色に染まった空を見ながら友だちの話に耳を傾けていた時だった。
「それで――ちゃんが」
同時に見ていた遠くの空がぐにゃりと揺れた気がした。
不自然に止まった言葉に足を止め、友だちの方を振り返る。
わたしは確かに振り返ったはずなのに後ろには友だちの姿はない。
「――?」
友だちの名前を呼んでも言葉は返って来ない。
それどころかさっきまで同じ様に道を歩いていた人も、お店の人も、いない。
「っえ……?」
頭上で鳴いていた鳥の声も、風の音もなにも聞こえない。
あるのは見慣れた店の建物と静けさ
それらを理解した瞬間、焦りが体中を駆け巡った。体が冷えるような感覚がして手と足が悲鳴をあげてくる。立っているので精一杯だった。
「ど、しよ……」
ここは本当にわたしが知ってる場所なの?
それなら街の人は一瞬でどこにいったの?
様々な疑問が次々と頭に浮かぶも得体の知れない恐怖に掻き消され、もう涙が溢れそうになって俯いた直後、おとがした
確かにわたし以外が発する音が聞こえた
カツッ、チリン、カツッ、チリン
誰かの足音と鈴の様な音だった
どのくらい時間が経ったか分からないけれど足音が徐々にこちらに近付いて来ている
前の道から人影が見えてくるも、わたしは駆け寄る事も出来ずその場で呆然と立ち尽くしていた。
「おや……?」
人が居ることに気付いたのか小さく声が聞こえる。男の人の声だ。
その人がわたしの前まで来ると音のしない冷たい風が吹いた。
「…………こんばんは。こんなところに、お1人……ですか?」
男の人は周りを見渡してわたし1人だと確認すると、屈んで目を合わせる様にそう問いかけてきた。
屈んだとき、またチリンと鈴の音が聞こえた。多分この人の持ち物の音だったのかな。
「さっきまで友だちといた。けどいなくなっちゃって……」
「そう……じゃあ一緒に探しましょうか。直に暗くなりますし1人では心細いでしょう」
にっこりと優しく笑って手を差し出してくる。
変わった服の知らない人
本当ならついて行ってはダメだと分かってる。
でも、こんな分からないことだらけでどうすれば一番良いのかなんて分からない。
友だちや街の人がいなくなって初めて会った"人"
ここで一緒に行かなくてその後、誰にも会えなかったらと思うと恐怖が頭と心を支配する。
出会ったばかりで何も知らない人の手をとる以外、わたしは選べなかった。
差し出していた手に自分の手を乗せると握り返して立ち上がり、わたしの方を向く。
その人の手は水に触ってたみたいに冷たい。
「それでは……行きましょうか」
安心させるように、朗らかに笑ってから前を向く男の人。
少女は直ぐに下を向いたせいで気付けなかった。
口元を歪める異様な不敵の笑みに
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