昼のカートリッジ・夜のカートリッジ

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 だけど、シェルターの書庫やカートリッジ内の大学で得るものが、今の僕のわずかな生きる意欲につながっているのも確かだ。  過去の記録からは、人類はどんな時代でも何かに思い悩んできたことがわかる。  そして記録に残るのは輝かしい思い出よりも、葛藤の歴史だ。  もしかしたら、閉塞感に満ちた過去の息吹を、数世紀を経た僕が受け取ることでやっと風穴が開くのかもしれない。  ジョウジ、わかったよ。  尊厳っていうのは「生きた実感を発信できること」なんだ。  身を寄せ合える仲間がいるうちはすぐ近くの誰かに、周りに誰もいなくなって一人きりになっても後世に、希望を残そうとすること。  それこそが僕らが生きる上で必要不可欠な尊厳なんじゃないかな。  人間がもう生まれないなら、なにか新しい生物でもいい。  ここに僕が生きたこと、昼と夜の間にどうしようもない煩悶を抱えていたこと。その事実を、なんらかの存在に知ってほしい。  誰かに自分を届けたいと思う。この気持ちこそが、希望なのだ。  死ぬまでに何かをやり遂げたところで、そしてそれを記録に残したところで、命が消えてしまえば僕としては何にもならない。  でもそれでいい。いつかどこかで誰かに、何かの影響を及ぼせるのならば。  きっと僕がそう強く思っていられることこそが、僕にとって生きる糧になる。  人類史の終末に、僕に与えられた<昼と夜の間>で、僕はこの文章をここに残すことにした。  読んでくれるあなたの顔も名前も状況もわからないから、僕にとって一番近い存在だった旧友ジョウジに向けるつもりで書いた。  やっと一時間が経過するようだ。今日の昼と夜の間はこれでおしまい。ジョウジ、また明日会おう。それまでカートリッジで遊んでくるよ。
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