昼のカートリッジ・夜のカートリッジ

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 一日の大半の時間、現実世界に意識を留めない僕らに、この悲惨な世界の実情を否応なく思い起こさせるのがちょうど今のこの時間――昼と夜の間だ。  日暮れが近づくと、外の環境に満ちた有害光線がいくらか弱まるのだという。その頃合いを見計らって、僕たちが身を任せている装置の稼働が中断される。  閉め切った窓と遮光カーテン、特殊ガラスのカプセルと三重で守られている僕らが、カプセルから出られる唯一の時間。  カプセル内に敷かれた弾力性マットレスは、長時間横たわったままの身体が不調をきたさないよう、僕があっちの世界へ行っている間、適切なタイミングで姿勢が変わるよう働いてくれるのだが、それにも限界はある。  約二十四時間ごとに一回は人間自ら立ち上がって、身体を重力方向に据えなければ、脳への血流の関係で重大な健康問題が生じるらしい。  それで僕たちは毎日、日没前になると強制的に夢の世界からログアウトさせられて、短時間ではあるものの、現実を直視するひとときを過ごさざるを得ない。  地球環境が破滅するまでに技術が高度化しきった文明の中で、僕たち人間は最後まで苦しみから解放されない。これほどの皮肉があるだろうか。  進歩の先に立つ僕たちはどうしようもなく無力で、自分たちが人間という一生物に過ぎないのだと思い知らされる。 「なぁサクヤ。人間の尊厳ってさ、きっとこうやって仲間どうしで身を寄せ合えることなんだよな」  <人類総隔離>によって僕がここで一人きりの生活を開始する以前、同じシェルターで暮らしていたジョウジがつぶやいた一言が思い起こされた。  答える相手はもちろん目の前にはおらず、取り立ててやることもない僕は、ただカプセルの横に突っ立ったままの身体を伸ばした。
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