昼のカートリッジ・夜のカートリッジ

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 バーチャルの登場人物はみな、架空のヒト型データパックだ。  僕が総隔離以前の人生前半に知り合った実在の人たちは、カートリッジに組み込まれていない。  プライバシーがどうとか議論があって、架空の世界はあくまで架空であるべきという結論になったのだ。  これだけ自由が制約された世界で、今さらプライバシーも何もあったもんじゃないと思っていたが、精神の平穏を保つのには必要なことだったのかもしれない。  だって、もしも旧友との再会を本気で喜び、語り合った後に覚醒して、それが幻影だったと認識すれば、作り物の家族団欒なんかとは比較できない虚無感に陥るだろう。  もはや地球上の電波は壊滅状態で、永久に誰とも通信できないことが確実視されているのだ。  叶わない夢の欠片は、身近にない方がいい。  アンダルシアの海辺に佇むミユキや、展望台で年甲斐もなくはしゃぐサトミら架空のキャラクターとともに、そのとき限りの愉悦を得るぐらいで丁度よいのだ。  ただ、もう会えないし話せないはずの仲間と、脳内で語り合う妄想を止められないのが、この昼と夜の間のひとときでもあった。  ――ねぇジョウジ、尊厳って何なのさ。  生まれてこの方、外を自由に歩いたこともない僕らだけど、最後に残った人どうしの交流でさえ、人間を媒介とする致死性ウイルスが定着して失われちゃったよ。  人類総隔離は、僕ら人間をすぐには死なせないことには成功したのかもしれない。  だけど、身を寄せ合う仲間さえも取り上げられてしまった人間に果たして、尊厳など残っているのだろうか。
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