昼のカートリッジ・夜のカートリッジ

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 シェルターにいたころ、読み漁った過去の書物は二十一世紀で終わっていて、そこから現在までの人類の記録は穴が開いたように欠落していた。  僕が生まれる少し前、地球全体を襲った電波障害でネットワークが駄目にならなければ、近過去のデータベースにアクセスできていただろう。  書物を紐解くより、もっと僕らに近い時代の人々の、希望や絶望に一喜一憂できたのだと思う。  だけど今や、人類が紙の書物を手放してインターネットだけに意識を預けるようになった直近の時代の記憶は、永久に閉じ込められてしまった。  ジョウジは古い書物のかびくさい臭いが駄目だと言って書庫には近寄らなかったくせに、書庫で過ごした後の僕に、何か発見はあったかと尋ねてくるのが常だった。 「今日は尊厳について書かれた本を読んだよ」 「そりゃまたずいぶん高尚なものに手をつけたな。 俺は書庫のことをよく知らないけど、もっと軽い小説とかエッセイだってあるんだろう?」 「そんなの読んだって羨ましくなるだけだから」  真面目に答えたばかりに感傷的になってしまった僕の気を紛らわすように、ジョウジは話の続きを催促した。  僕は先ほどまで読んでいた本で、感銘を受けた下りをジョウジに説明する。  二十一世紀ごろには、人間は誰もが尊厳を持って生き、尊厳とともに死んでいけるように、社会全体で死生観の擦り合わせを試みたのだということ。 「ちなみに、その時代で言う尊厳というのは、死の瞬間まで苦しまず自分らしい人生を全うすることだってさ。 生き続ける苦しみが強い場合は、苦痛なく命を断てる安楽死なんていうものも提案されたみたいだ」 「だとすれば、今の俺たちほど尊厳のない人間はいない」
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