昼のカートリッジ・夜のカートリッジ

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 ジョウジはそれっきり黙ってしまった。僕もそれ以上、何かを言うつもりはなかった。  小説やエッセイのような主観的な心理描写がなくとも、今より豊かだった時代の価値観が下敷きにあるというだけで、時に書物は僕たちに刃のような鋭さを感じさせた。  あのときのジョウジが何を考えていたのか、もう彼とは決して会えなくなった今の方が分かるような気がしている。  後日、仲間どうし寄り添うことが現人類にとっての唯一の尊厳なのだと言ってきたときの彼の気持ちも。  あのすぐ後に、強毒性ウイルスの蔓延と定着に伴う人類総隔離で、僕たちの共同生活は終わりを告げた。  荒野に打ち棄てられた昔の家屋のうち、再利用できそうなものが一人一部屋割り当てられ、生命を維持する以外には束の間の夢を見せるだけのカプセルとともに僕らは一人ずつ放り出された。  作られた夢にどっぷり漬かりながら僕たちは、合間の<昼と夜の間>で現実に苦しみに苦しんで、それでも人生は終わらない。  これのどこに尊厳があるっていうんだろう。  今の僕たちがこれほど精神的苦痛を感じていても、安楽死させてもらえないところを見ると、近過去の人類は、尊厳を保持するための安楽死整備に失敗したに違いない。  バーチャルで楽しく過ごしている間に、カプセルに毒ガスでも流してくれれば一発なのに。  だって僕らは依然として、弱っちいだけの人間なんだから。  ジョウジもそう思うだろう?
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