あの感覚

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場所は生物室。時計の針は5時30分を指している。最終下校時刻の30分前が、写真部の活動終了時間だった。 「それじゃあ、今日はこの辺で。ありがとうございましたー」 「ありがとうございましたー」 部長の挨拶に合わせて、部員たちが挨拶をする。 「山田、一緒に帰ろう」 「いいよ」 辺りを見渡せば、早々に生物室から出ようとする人、雑談している人など様々だった。 俺は、同じ写真部の山田と一緒に、生物室から出る。 僕と山田は、二人、放課後の廊下を歩いていた。吹奏楽部がまだ練習をしているのか、楽器の音が聞こえてくる。 「なあ、山田」 「んー?どーしたー?」 「なんか、今、俺すっげー青春してる気がする」 「えー?そうか?」 「いやあ、消去法で入った写真部だけど、まあまあ楽しいし、それにほら!窓の外を見ろよ!」 僕は、窓の外を指差しながら言った。 「綺麗な夕日だろ?放課後の廊下に差し込む、夕陽の光、青春の証。響く足音、吹奏楽部の楽器の音、友達と歩む物語、ほら、青春してるだろ!」 「まあ、よくわかんねーけど、してるような気もする」 廊下に二人の足音が響く。 「俺さ、この感じが好きなんだよ!何というか、ふわふわするというか、今俺は生きてるんだ!楽しいんだ!充実してるんだ!って分かるこの感じ」 「ますますよくわかんねーなぁ。抽象的すぎるんだよ、お前の言葉」 「つまりだな。授業からも部活からも解放されて、日は沈み、時間は夜に進もうとしている中で、生きている実感、自由を感じてるってことだよ」 「だー!もー!わかんねぇ!1行でまとめてくれ」 「言葉では言い表せない、この時間、この瞬間、この感じが俺は好きだ」 感じたことが無いだろうか、この感覚。部活を終えた後、夕陽を浴びながら歩む通学路、学校の廊下。汗に濡れた体操服を優しく包み込む冷たい風。 カラスの声。 学校は終わったのに、何かが始まるような、ワクワクそわそわするようなふわっふわな感覚が僕を襲う。 学校から解放された喜びだろうか?家に帰れる喜びだろうか? 分からない。 僕にも分からない。 大学生になった今でも思い出すあの感覚。 あの時しか味わえなかったあの感覚は、一体何だったんだろう。
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