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或る日、僕は彼女に、将来の夢を尋ねた。きっと、彼女らしい、優しい夢なんだろうと思っていた。彼女は言った。
「私ね、夕陽が見たいの」
「月は綺麗。あの、淡く白い光は本当に綺麗。闇の中で私たちを照らしてくれる光は、とても穏やかで素敵。でも、あの星は、いつだって冷たいの。いつだって、私を見てはいない。私はこの夜の世界に見放されている。だから、夕陽をつくる、とても暖かくて、明るくて、希望をくれるという、太陽の光に包まれながら、私は、死にたい。なるべく早くね」
手紙には、それが、私の夢、と書かれていた。
世界の残酷さを嘆いた。僕は、その痛みを誰よりも知っていた。世界に愛されない人間の肺の痛みは、文字通り、死ぬほどに痛い。きっと、彼女は僕と同じだ。種族はまるで違えど、同じ日々を生きている。夕方に海へ行って、世界の目を睨み、背後の優しい光に抱かれる勇気を出せず、家に帰る。死にたい、でも、死ねない。そんな日々。この世に、得体のしれない未練を抱いている。この手紙は、愛されたかったという、彼女の未練を果たすために流れてきたのではないかと、僕は今になって気付いた。
結局、僕は、こんな手紙を書いてしまった。
「明日、十月一日の夕方、黄昏山という山に来てください」
黄昏山。この世界の中心にあるとされている、南の山だ。その山の上には、寂れた塔がある。夕陽と月が同時に見えるであろう塔が、そこには立っている。
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