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俺と先輩は手を繋いだまま無言で歩いていた。
夕暮れに空が染まる中さびれた公園の前にさしかかった時、先輩が口を開いた。
「つぐつぐ、時間大丈夫ならちょっと寄ってかない?」
「――――っす」
並んでブランコに乗り、先輩はきーきーと緩くブランコを漕いでいる。
「あの、さ。思えば俺受け身だった。いつも怖くて誰も近寄るなってバリア張ってさ。こんなんじゃダメだって思うのにどうしても他人が怖かった。悟られないように頑張ったけど、怖くてつらくて……限界だった」
「………」
「そんな時、つぐつぐに会ったんだよ。つぐつぐの無表情って何か安心した。俺に関心ないって思えて安心したんだ。だから頼っちゃってこんな事に巻き込んじゃった」
ほら、先輩は自分に興味を抱かない俺だから側に置いてくれたんだ。
きゅっと胸が締め付けられた。
それでもなんとか平然を装って。
「巻き込まれたなんて思ってないっす」
「うん。つぐつぐはそういう人だよね。本当優しい。それにね付き合ってるうちにわかったんだけど、つぐつぐって自分で思ってるほど無表情でもないんだよ?瞳がねすごく語って来るんだ」
「瞳――――?」
「うん。俺の事が大事だ。俺の事が好きだ、愛おしい。抱きしめたい、護りたいって」
俺を見つめる先輩の瞳は熱を宿しゆらゆらと揺れていた。
一番知られてはいけない人に全部ばれていたってことなのか―――!
俺は血の気がひいた。
「そんな顔しないでよ。分かってる。山本に言われて気づいたんだ。そう見えたのは俺の願望であってつぐつぐの本当の気持ちじゃないって。今まで俺を護ってくれてありがとう。俺一人でも頑張るから、頑張れるから…」
先輩はブランコから勢いよく立ち上がるとにっこりと笑って見せた。
ちがう……。ちがう、ちがう!
そんな顔をさせたかったわけじゃない!
――――俺はっ!
「先輩っ」
もう俺は自分でも自分の心に嘘をつく事ができなかった。
先輩を自分の腕の中に閉じ込める。
「好き…っす。俺、先輩の事が、好きっす!」
「もう気を遣わなくて、いいんだよ?」
「気なんか遣ってないっす!本当に……先輩の事が大事で愛おしくってしょうがないっす!先輩の笑顔を護りたいっす!」
「―――証拠…みせて?」
そう言うと先輩は静かに瞳を閉じた。
長い睫毛がふるふると震えている。
「―――――っす」
俺はごくりと唾を飲み込むとゆっくりと先輩の唇に自分の唇を重ねた。
俺の本当の想いが伝わってほしいと願いながら。
静かに開かれる瞳は綺麗な透明の膜を張っていて、キラキラと光りが零れていった。
「先輩を好きな俺が―――傍にいても、いいっす、か?」
「うん。うん、うん。傍にいてよ。好きだよ嗣範――」
「―――――っす」
最初はお互いへの想いを隠しながら嘘をついて傍にいる事を選んでしまった。
それが間違いだったとは思わないが、今の俺は自分の気持ちに嘘をつく事なく先輩の傍にいる。
相変わらず表情筋は死んでいるが俺は瞳で先輩に愛を語る。
そして先輩はふわりと笑うんだ。
これからもずっと…。
-終-
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