うそ、うそ、うそ。

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うそ、うそ、うそ。

「ふざけんじゃないわよ、クソがっ!」  思わず机に拳を叩きつけていた。共栄社ライト文芸新人賞――絶対の自信を持って挑んだはずであったのに、そこに私の名前はなかった。並んでいるのはどれもこれも、読む前から低俗だろうとわかる異世界ファンタジーばかりだ。  確かに、近年異世界系のファンタジーに人気が集中しているのはわかっている。やれ異世界転生やら、悪役令嬢やら、逆行やら勇者追放やらなんやら。勿論それ以外にもファンタジーがないわけではないが、目下人気を博しているのはほとんどが不思議な世界での冒険やスローライフを行うような物語ばかりだった。実際、今回私が応募した共栄社ライト文芸新人賞も、それとなく“異世界ファンタジーを特に求めています”といった一文が記されていたことには気づいている。  そう、求められているのが大人気のそれらであることがわかっていながら、私は“ノンジャンルでの募集”の言葉を信じて自分のミステリー作品を応募したのだった。気高く可愛らしい女子高生探偵が、恐ろしい怪事件に挑む物語。ライトノベルのように頭の悪い文章ではない、行間など殆ど空けずにみっちり文字を詰め込んだ硬派な小説を投稿した。今回の新人賞は、共栄社のSNSに投稿することにより応募できる仕組みとなっていたためである。  確かに、文体が固すぎるだの、表現が回りくどすぎるなどというコメントも寄せられた作品だった。だが、そもそも私の正統派なミステリーを理解できる頭のない、愚かな読者など気にする必要はないのである。それらのコメントを片っ端から消し、ブロックし、場合によっては通報しながら。例え流行に乗れずとも、私のハイレベルな作品ならば運営を唸らせることも可能だと確信していたのである。  受賞間違いなし。書籍化させてください、と頭を下げてくるレベルの作品だと信じていた。  それなのに蓋を開けてみれば、私の作品名は最終候補はおろか、最終候補まであと一歩とされた優秀作品の一覧にも乗っていない。これで腹が立たない方がどうかしているというものだ。プロが審査するのだから、正しい評価を下されるとばかり思っていたのに残念極まりない。どうやら現在の出版業界は、プロさえも頭のからっぽな連中の集まりということであったらしい。 ――異世界でやれ転生だの冒険だの勇者だの!そんな下らないものばっかり評価されるんだから、この国も終わってるわ!  自分の作品ならば、必ずこの業界に革命を起こせるはずだったというのに――なんとも情けない話である。  悪いのも足らないのも私の技量ではない。私を正しく評価しないクズどもが悪なのだ。どうにかして、こういう連中を屈服してやることができないものか――そう、こいつらみたいな馬鹿編集者と馬鹿読者が好きそうな、あの“ざまぁ展開”のように。 ――共栄社は駄目だわ。他の、古き良き頭のいい文学を評価してくれるコンテストや公募はないの?……ああ腹立つ、腹立つ腹立つ腹立つ!
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