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「うっざ。何なのよ、一体」
私は苛々と爪を噛んだ。
あのコメントの主は、一体どんなからくりを使っているのか。コメントを消しても消しても、コメント主をブロックしても。当たり前のように同じコメントが翌日の夜に書き込まれるのである。それも、別のアカウントから。
荒らしだからなんとかしてくれ、同一IPからの書き込みは禁止にしてくれ――運営にはそう連絡を入れたが、返ってきたのは“どれも全く別のIPから書き込まれているので対処ができない”というメッセージだった。一体何をどうやっているのだろう、この犯人は。私が嘘をついている、なんて。失礼にもほどがある。一体何を根拠にそのようなことを言っているのか。
――私はDV夫に捨てられて子供を奪われた可哀想な元専業主婦よ?何も間違ってなんかないじゃない。
腹立たしいことに、書き込みは今度は私のTwitterに及んだ。私の呟きに、同じリプライがついたのである。
『なんで嘘をつくんですか』
――嘘なんかついてねーよ!ふざけんな、死ね!
私はそのリプライを運営に通報し、ブロックした。
だがTwitterでも同じ現象が起きるのである。メッセージ、リプライ、引用リツイート。それらで別々のアカウントから、絶え間なく同じコメントがつけられるようになるのだ。
『なんで嘘をつくんですか』
『なんで嘘をつくんですか』
『なんで嘘をつくんですか』
『なんで嘘をつくんですか』
『なんで嘘をつくんですか』
『なんで嘘をつくんですか』
『なんで嘘をつくんですか』
『なんで嘘をつくんですか』
『なんで嘘をつくんですか』
『なんで嘘をつくんですか』
『なんで嘘をつくんですか』
『なんで嘘をつくんですか』
『なんで嘘をつくんですか』
『なんで嘘をつくんですか』
「あああもうっ!煩い煩い煩い煩いっ!私は嘘なんかういてねぇつってんだろーが!!ゴミ、ゴミゴミゴミゴミ!どいつもこいつも、私の才能に嫉妬するゴミばっかり!!」
私は諦めてアカウントを削除した。これでさすがに落ち着くはずである。――残念ながらそんな考えは甘かったのだけれど。
今度は私のパソコンのメールアドレスに、同じ内容のメールが届いたのだ。
『なんで嘘をつくんですか』
ここまで来ると、流石の私も気持ちが悪くなってきた。ハローノベリストにはTwitterのアカウントも貼ってあったから、荒らしがそっちにやって来るところまではわかる。だが、ヤフーのメールアドレスはハローノベリストに公開していない。荒らしが発見できるようなものではないはずなのだ。見つかったとしたらそれは、どこからか個人情報が漏れているとしか思えない。
――嘘って何よ。何が嘘だってのよ!
そもそも、こいつの目的がなんなのかが分からなかった。
他にもっと攻撃的な言葉もあるはずなのに、この相手はひたすらありもしない私の嘘を責め続けているのである。それこそが一番伝えたいことだと言うように。それ以上に問いかけたいことなど何もないと言うように。
「神様!私にまとわりついてくるクソなネットストーカー、なんとかしてっ!この世から抹殺して、マジうざいうざいうざい!!」
私は神社で神様に吐き捨てるように告げ、お賽銭を苛立ち紛れに投げつけたのだった。小銭がきちんと賽銭箱に入ったかどうかさえ、確かめることもなく。
神様にお願いはしたが、一番有効な手段が何であるかはわかっているつもりだったからだ。――そんなに私の才能を妬んで小説を書くのをやめさせたいのなら。ひたすら書き続ける以外に、道はないのである。少しでも早く帰って、続きをアップしてやりたい、そう思っていた。
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