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「なぁ!なうなうなうなー!」
僕が頭を抱え始めた頃。今日最後にやってきたのは、黒と灰色の縞模様が綺麗な野良猫だった。何やら賽銭箱の前でうにゃうにゃ言っている。
「にゃ!なうー、なうなうなう!」
「……ごっめん、僕、神様だけど猫語はわかんないんだわ……。あと今は申し訳ないけど翻訳する気力もない……アホな願いばっかでほんと疲れた……」
「にゃー……」
あれ、もしかしてこの子、僕の姿が見えているのだろうか。彼なのか彼女なのかよくわからない猫は、僕のいる方をじっと見つめると――ぽんぽんと賽銭箱を前足で撫でて去っていった。
そして少しして戻ってきて、どこからもらってきたのか煮干のようなものをこっそり賽銭箱の中に入れていったのだった。あとでお賽銭を回収する神主さんが大変なことになるやつでは、と思ったが。完全に不意打ちだったため、拒否を発動させることができなかった。
別の意味で申し訳ないといえば、申し訳ない。お賽銭箱に入れてもらったところで、僕が相手のお願いを聴いていなければ叶えようがないからだ。シマシマ猫が何をお願いしにきたのかわからない以上、僕にはどうしようもないわけで。
――お腹でも空いてた……なら煮干置いてかないよな?それとも恋人欲しいとか?……どうでもいいけどさー。
暫くの後。僕は思いがけない形で、猫の願いがなんであったのかを知ることになるのである。
シマシマの猫が、茶トラの猫と一緒に神社を尋ねてきたのだ。傍に、三匹の子猫を従えて。
「うにゃ!」
シマシマ猫は満足げに鳴いて、またしても賽銭箱に煮干を入れていった。
どうやら、奥さんの出産が無事に終わるように祈願したつもりであったらしい。どうやらお願いは、僕の力がなくても叶ったようだ。
本来なら願いとはそういうもののはずである。――自分で努力して叶えるから、神様に応援してほしい。神様の前で、叶えてみせると誓いを立てるということ。楽して他力本願で願いを叶えてもらいたいというものではないはずだというのに。
――まったく、人間も見習って欲しいよ。あーあ、僕が人間なら今回の話、ツニッターにでもアップしてバズらせるのにな!
まあ、強欲でアホなのも、ある意味人間の魅力ではあるかもしれない。
今日も今日とて、僕のところにはしょうもない願いを抱えた人間達がやってくるのだ。
「かーみーさーまー!勉強まったくしないで赤点免れられる秘密道具みたいなのありませんかー?」
「無茶言うなアホ!」
賽銭箱から弾き飛ばされた百円玉が、女子中学生の額にかこーん!とヒットしたのだった。
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