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電子レンジ
私はお弁当を温めようと電子レンジを開けました。
するとそこにあったんです。
──街が。
所狭しとビルが立ち並び、縦横無尽に伸びる道路には車まで走っています。
知らない景色でしたが、何となく日本の都市という感じがしました。
私は思わず電子レンジを閉めました。
ガシャンという小気味良い音とともに街が消えます。
キッチンの電気を点けていなかったので、レンジのガラス扉の向こうは暗くて見えなくなりました。
私は今のが何だったのか考えました。
こんな目と鼻の先で見間違いということがあるでしょうか。
そもそも街と見間違うような何かが電子レンジに入っているわけはありません。
唐揚げ弁当はまだ温める前でしたし。
となれば電子レンジの中に街があるという有り得ない現象が起きていることになります。
故障でしょうか。
メーカーに問い合わせてみようかとも思いましたが、イタズラだと思われるのは目に見えていたので辞めました。
電子レンジの中に街があるだなんて話、一体誰が信じるでしょう。
試しに「電子レンジ 街」で検索してみましたが、他にそれらしい体験をしたという記事は見つかりませんでした。
当然ですよね。
とは言え何もしないわけにはいきません。
このまま電子レンジが使えないのは困ります。
私は意を決して、もう一度ガラス扉を開けました。
するとやはりそこには街があります。
見間違いではありませんでした。
私は目の前の不思議な景色を観察してみました。
ミニチュアという感じはしませんでした。
景色は蜃気楼のようにゆらゆらと揺らいでいて判然としませんが、空気感というか、雰囲気がとてもリアルでした。
これは本物の街なんだと、直感で思いました。
私はもう一度電子レンジを閉じました。
扉が閉まると同時に液晶の画面が点灯しました。
本来ならこのタイミングで温めの内容や時間を入力するのです。
と、そこで私は好奇心にかられました。
(このまま温めたらどうなるんだろう)
私は試しに三十秒間、温めてみることにしました。
昔から思い立ったら試さずにはいられないたちなのです。
──いや、しかし。
まさかあんなことになるなんて。
思いつきで行動するのは良くないですね。
これからは気をつけます。
完
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