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「あたしね。人に愛されたい、愛されたいってずっと思ってた。でも、愛されてるってどうやって測るんだろうって、最近思うの」
ベッドで一緒に過ごした時、美香が言った事があった。
「自分が誰かを愛している。その事は分かるだろう?」
北岡は美香の髪を撫でながらそう言った。
「うん」
美香が頷くと、甘い薫りがした。
「だったら、愛するんだな。愛されたいと思うんじゃなくて、愛する。ただ愛する。愛すれば、愛される。そんな風に思いたいね」
自戒を込めて、北岡は言った。
「いっぱい愛せば、いいのかな」
北岡の胸に顔を埋めていた美香は、今はもう居ない。違う愛を見つけたのか。それは分からなかった。ただ、別れの言葉の代わりに、化粧箱に入れられた北岡の書斎の鍵が置かれていただけだった。
北岡の灯は不意に消えた。
闇が少しずつ、足もとから這い上がって来るようだった。
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