灯のあと

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 北岡は自分の食器を手にキッチンへ行き、シンクに置いて冷たい水で軽く流した。この山小屋の欠点は、この流しの水道だった。給湯設備を付ければいいだけだが、面倒だった。 「食器は洗わなくていい。湯が出ないんだ」  北岡はそう言うと、階段を昇って仕事場である小さな部屋に入った。そして部屋の何か所かと仕事机の上の蝋燭にマッチで火を灯し、何度か自分で両の頬を掌で叩くと、机に向かった。今で言うルーティンの様なものだった。  蝋燭はキャンドルグラスに入れた太めのもので、ランタンの光よりも少し暗いが、仕事にはこれぐらいの灯りが丁度良かった。一か所ずつ明るくなって行き、室内に闇の部分が残る所も北岡は気に入っていた。神経を逆なでず、時折室内の光が揺れると、執筆が長引いて疲れが出てきた時など、ぼやけた意識をはっと醒めさせる事もあった。
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