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「ここは色々と古びててね。余り手を入れる気も無く使ってるから」
「いえ、お礼も何もできませんから」
美香はシンクの辺りに腰をもたせ掛ける様な姿勢で小さく首を振り、そう答えた。
「ありがとう、ございました」
美香はまだぎこちない様子で、笑顔を作った。やはり笑った顔がいいと、北岡は思った。
「コーヒーを淹れるんだが、飲むかい?」
「あたし、やりましょうか」
美香が北岡のすぐそばまで近づいた。見上げるようにした美香と、また視線がぶつかった。髪が揺れ、柔らかい薫りが北岡を包んだ。美香はそのまま泣き出し、北岡の胸に顔を埋めた。美香の身体をそっと抱き支え、北岡はそのままで居た。長い時間、そうしていた。
それが美香と過ごした、最初の夜だった。
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