灯のあと

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 この歳になると、五年など長いようであっと言う間だった。美香との時間は決して長かった訳ではない。だから余計に、北岡にとって自分が抱えている喪失感の大きさは、戸惑いを感じさせた。  仕事場にしている部屋の小さな窓から外を見ると、暮れ始めた陽が木々の間から差し込んでいた。風があるのか、光線が揺れていた。  美香はここに座って、外を見るのが好きだった。決して景色が良い訳ではなく、あるのは生い茂る木々だけだったが、厭く事無く外を見つめていた。季節によって来る鳥が違うと言って、楽しそうに北岡を呼んだ事もあった。そういった外見からは思い至らないような無邪気な所が、北岡を惹きつけていた。それは女の男を誘う手管とは違う、恐らくは美香の心の奥の未発達な部分から出て来るものではないかと北岡は考えていた。
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