灯のあと

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 女と少女、いや子どもが同居している様な部分が、美香にはあった。それが北岡の若い頃の、まだ情熱を強く持っていた時の苦い経験を、記憶を刺激してくるのだと、美香の笑顔を見る度に半ば自分に言い聞かせるようにして、気持ちが動くのを抑えてきた。  陽が落ちるのは早く、部屋の奥にはもう闇が広がり始めていた。北岡は知らず詰めていた息を吐き出し、首を回して立ち上がると、室内の何か所かに置いたキャンドルグラスの蝋燭に火を灯していった。  闇を追い払うように蝋燭の暖色の光が室内に届いていく。北岡は仕事机の椅子に腰を下ろし、そばの蝋燭を眺めた。焔が時折、すきま風で揺れる。蝋燭の軸のそばの蝋が熱で溶け始め、液状になり同じように揺れ始める。  北岡は仕事中には美香を仕事場に入れなかった。それは美香も承知していたが、何度か、コーヒーを淹れてくれるよう頼んで、その時だけ室内まで持って来てもらった事があった。
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