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夜遅くでも美香は北岡を待っていて、北岡が声をかけると、そこからコーヒーを淹れ、階段を昇ってきた。その時には北岡は暫く休憩をとり、美香も一緒にコーヒーを飲んで時間を過ごした。
ある時、美香が窓際のキャンドルグラスの焔を見つめながらぽつりと言った事があった。
「あたし、この蝋燭みたい。先生っていう火のそばでだけ、先生の温もりで融けて、水みたいに自由な気持ちで居られる気がする」
美香の横顔は涼やかで、落ち着いていて、言葉の通り安堵しているように思えた。
いくらか冷めてきたコーヒーのカップを玩びながら、北岡は言った。
「君は自由さ。いつだって自由でいい」
蝋は焔のそばでは融け続けて、やがては無くなってしまうだろう。北岡はその考えを口には出さなかった。
「先生は意地が悪いわ」
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