灯のあと

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 美香は子どもが拗ねる時のように唇を少し尖らせて、肩を竦めた。そういう仕種をしても媚びにならない。北岡の前での美香は、最初に救いを求めてきた頃から随分と感じが変わっていた。少しずつ身体に巻き付いていた棘の様な何かから、自由になり始めている様に北岡には思えた。だからそれは、いつかは北岡のもとを去って行く、その始まりであったのかもしれなかった。 「君の為を思って言ってるんだ。好きな人が出来たら、その人のもとに行けばいい。その人が君の新しいともし火になるさ」  美香との出逢い方が、北岡にそんな思いを抱かせてもいた。新しい恋が、一番の薬になるだろう。それまでの仮の宿が、自分であれば良い。 「先生はやっぱり意地悪。あたし、まだ何も御恩返しできてないのに」  美香は少し切実な調子でそう言い、北岡を見つめた。瞳にも随分、力を感じるようになっていた。
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