灯のあと

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「もう十分返してもらったさ。もっとも、俺は君に何もしちゃいないつもりだがね」  コーヒーを飲み終え、北岡は美香に背を向けて、机に向かった。それ以上の話はしないという意思表示だった。 「あたしは先生が好き。好きになったんです。これは本当の事。先生に逢えて、助けてもらえて、本当によかったと思ってるの」  それだけ言うと、美香は階段を下りて行った。あの時、何か声をかけてやるべきだったのか。蝋燭のゆらゆらとした灯りを、北岡は見つめた。融けだした蝋にその焔が映り込んで同じように揺れていた。 「融けたのは俺の心の方さ」  呟いてみても、仕事場の静けさが深くなるだけだった。  両の頬を何度か叩き、北岡は立ち上って仕事机の前に立った。既に窓の外は闇に落ち、夜が始っていた。
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