灯のあと

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 北岡は立ち上がり、美香に背を向けた。グラスが持ち上がる微かな音が聞こえた。その音を聴いて、無意識に入っていた肩の力が抜けた事に、北岡は苦笑した。  ソファで眠ってしまった美香が眼を覚ましたのは、北岡がダイニングテーブルに食器を並べていた時だった。陽は落ち、室内は灯油式のランタンの灯りと、薪ストーブの小窓から見える焔とで温かい色合いに包まれている。電気は勿論来ているが、北岡は寒くなるとこのランタンの灯りを使っていた。  『コジード』はまだまだ煮込むと味が深くなり旨いが、今は自分自身も腹が減っている。どうせ一週間ほどは同じものを喰うのだった。その間、火を入れる度に味わいは変って行く筈だ。それは推敲を繰り返すのと似ていた。 「酒が効いたかな」  北岡の下手な冗談に乗れるほど、まだ美香は心を許してはいなかった。手にスプーンを持った北岡を不思議そうに見ている。
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