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すぐに言葉が出た。本当に美味いパンだった。北岡もこのパンだけはここに来たら必ず食べる。先輩というのは本当だが、作家としては北岡ほど商業作家になりきれなかった。その男が始めたのが、小さなあのパン工房だった。
「おっさんに言っとくよ。君みたいな美人が食べてくれたと知ったらきっと大喜びさ」
美香がはにかむ様に笑った。
いつになく北岡は饒舌になっていた。美香が笑う顔を見たいと思った。この娘は哀しい顔をするより、笑っている方がいい。すっきりと通った鼻筋と、少し垂れた瞳のラインのバランスが、笑顔を見たくさせる。
話していると、美香のスプーンの動きも多くなった。身体が、消費した何かを取り戻そうとしているのかもしれなかった。
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