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櫂の運転する車の後部座席で美音は眠ってしまった。私がその小さな身体を膝に抱く。
いつもそうだ。美音は何も言わないけれど、本当は病院も梅田の人混みも苦手なのだ。とても緊張してしまうらしい。
それでも月に一度のこの病院受診を美音はいつも頑張って行く。いつかきっと家族のみんなと、一緒にお話したいと美音が言う。
頑張っていればそれが叶うと信じている。
「先生はなんて?」
「ん…いつもと変わらない」
「そうか」
心因性の失語症。いつ治るのかは医者にも分からない。
でも、決して美音に無理をさせてはいけないという注意だけはいつも受けている。
「焦ることは何もない、俺たちは美音の言いたいことは大体分かるんだから」
うん、そうだね。もうずっと家族だから。
私は自分の膝の上で静かに眠る美音の頭をそっと撫でた。
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