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「美音、ばあちゃんからお茶」
自分の部屋に引き上げた美音に声を掛ける。美音は部屋に置かれた小さなテーブルの上でまだ父ちゃん達のアルバムを見ていた。今度は高校の卒業アルバムだ。
「ありがとう」
とりあえずそのトレイをテーブルに置いた。お菓子は三つあったから二つを美音に渡す。
「良いの?」
「うん」
このお菓子は美音も好きだ。俺はひとつで十分。
「ねぇ拓海、この写真のお父ちゃんはやっぱり昂輝兄に似てる」
「そりゃあ」
親子だもんなという言葉を飲み込んだ。血縁だから似てて当たり前なんて言葉を聞きたい訳じゃないよな。
「こっちのお母ちゃんもすごく可愛い、目元と口元がおばあちゃんにそっくり」
言われて見ればだけど。この個人写真よりもさっきの化粧をバッチリしたウエディングドレスの方がかなり似ていると思う。
「美音のママも美音に似てるのかな…」
美音?
「ママも今は幸せでいるのかな…幸せだと良いな」
その言葉は自分は今幸せだからという意味だ。だから母親はどうなのだろうかと、やっと美音はそう思える余裕ができたのだろうか。
「ね、拓海」
俯いた美音の頭をそのまま自分の胸に押し付けた。
小さな頃、発作の様に何かに怯えて泣き出した美音をいつもこうして抱き締めていた。
美音が怯えると真っ先に探すのはいつでも俺だったから、自然にその役割が俺には染み付いている。
でも今は、美音は泣いてないんだな。
「ママに会いたいか?」
抱え込んだままの美音が首を振る。今はまだその時じゃ無いか。
俺はそのまましばらくの間、静かに美音を抱きしめていた。
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