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美音と父ちゃんが先に車で家を出た。
俺はまだ時間があるから、その間ばあちゃんとお茶だ。
「拓海、お部屋は大丈夫?不自由は無い?」
「うん、元々父ちゃんの部屋だから机もあるし、俺の方は大丈夫」
「そう、美音の部屋は机が無いのよね。洸が大阪に行く時に処分しちゃったのよ、もう使わないからって。でも櫂のは念の為取って置いたの。美音には来年までにアルと相談していいのを買ってあげたいわ」
きっと美音は要らないというだろうな、申し訳無いって。
「二年を目安に父ちゃん達もこっちに帰ってくるって言ってたね」
「そうね、凪紗と真也の学校のこともあるから、年度変わりをめどに戻りたいって言っていたわ」
「どの辺に住むんだろ」
「土地が広いところを探すって言ってたから、同じ市内でもちょっと郊外になるかも」
「ばあちゃん達も一緒だよね?」
「ん〜櫂はそのつもりだけどね、私たちは別にここでも良いかと思ってるのよ」
ばあちゃんがお代わりのお茶をついでくれる。
「この家には思い出が多いから売るつもりはないし、ゆくゆく拓海たちが大きくなって結婚とかしたら誰かがこの家に夫婦で住んでくれても良いからね」
「気が早いね」
「あら、割とすぐかもよ。昂輝と夏那だって婚約してるでしょ」
そういえばそうだけど。
「おばあちゃん達の楽しみよ。ひ孫の面倒まで見れたら良いなぁって。欲張りかしらね」
そう言って笑うばあちゃん。大丈夫だよ、ばあちゃん達はいつも元気じゃない。きっと大丈夫、そうじゃないと俺が困る。
「あら、隆成よ」
窓の外におじさんの黒い乗用車が見えてきた。さすがに今日は軽トラじゃないや。
「ばあちゃん、行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね、帰りには隆成を連れてきて」
俺は玄関から出て、こっちに向かって手を振っている隆成おじさんの車に向かった。
「おじさん、今日はありがとうございます」
まずは挨拶だ。おじさんはわざわざ仕事を休んで来てくれたって父ちゃんに聞いた。
「子供がそんな事気にするな、お前は俺にとって甥っ子と同じだ」
親友の息子なんだから面倒くらい見させろと言ってくれる。
俺にもいつかこんな友達が出来るかな。
うちの家は大阪弁を話さない。
父ちゃんも母ちゃんもばあちゃんも東北人で言葉は標準語寄りだし、アメリカ人のじいちゃんは完全に標準語。だから俺達も自然にそちらの言葉に寄る。
大阪弁を話さない俺は取っ付きにくいらしくて、学校ではクラスメイトとも当たり障りのない挨拶程度しか話さない。
まぁ美音に言わせるとそれだけの理由じゃ無いようだけど。
美音も最近話し始めたけど、やっぱりその言葉は俺達と同じだ。
二人とも親しい友達はいない。
別にそれに対して何の感情も無かったけど、父ちゃんと隆成おじさんを見てると、こういう友達は良いなって思ったりはする。
「拓海、なにか美味いものを作るようになったら俺にも食わせろよ」
「はい」
それはもう頑張ります。
30分位で隆成おじさんの運転する車は、昨日も来たいわき南農業高校に到着した。
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