後日談⑰ ー拓海ー

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   座学での授業はどこでも同じだからと、中川先生は校舎の説明を足早に終え、すぐに俺たちを実習棟に連れていってくれた。  最初に畜産科の豚舎だ。入った途端、生まれたばかりのような可愛い子豚がいっぱい入ったゲージがあった。  小さい可愛い声でブッブッと鳴く。つぶらな黒い瞳が超可愛い。それを生徒たちが一頭一頭体重測定していた。 「ほう、これは可愛いですね」  隆成おじさんがつい撫でようと手を伸ばす。 「その子達は3ヶ月後には食肉です。食品加工科の生徒達がベーコンにしてくれます」  言われておじさんが素早く手を引っ込めた。 「情を移す訳には行かないのですが、これもまた養豚家を目指す生徒たちには必要な経験なのですよ。酪農家もしかり」  知っている。だから俺は自分にはそちらの道は無理だと思った。にゃん太が死ぬ所を想像しただけで俺は一瞬動けなくなる。家族だって尚更だ。そんな事は絶対考えたくも無い。  だから俺は生き物を相手の生業は出来ない。 「こちらには鶏舎もあります、どうぞ」  隣の建物が鶏舎だった。中学の体育館の半分くらい、結構大きい。  中に入ると、こっここっこと鶏の鳴き声。採卵用の設備に沢山のニワトリが見える。まるで工場のようにニワトリが卵を産むと自動的にこの金属のレーンを通ってここに集まる仕組みだ。そこを生徒たちが忙しく動き廻っている。 「先程の豚舎もこの鶏舎も生徒たちが当番制で世話をしています。畜産科の生徒は殆ど全員が寮生活なんですよ。朝の五時から世話を開始して、豚舎も鶏舎も餌やりと掃除、鶏舎は卵の回収と洗浄もあります。卵は寮生達の食事となる他にも、イベント毎に売られたりしています。うちの人気商品のひとつです」  先生は次の小屋に入っていく。牛小屋だ。 「ここにいるホルスタインは三頭で、採乳の実習もあります。時間が決まっていて朝晩二回。朝の採乳はやはり当番制です」 「畜産科の生徒さんは大変ですね」  隆成おじさんが関心したように言う。 「いえいえ、園芸科も同様ですよ。寮生は畜産科ほど多くはないですが、やはり朝の五時には当番制で仕事があります。主に水やりなどですが、これは通いも寮生も変わらずありますから結構大変ですよ」  先生が次に案内してくれたのは昨日のカーネーションの温室だ。昨日と変わらずに綺麗な鉢植えがいっぱいで、実習中の生徒達がその鉢植えを綺麗にラッピングしている。昨日美音が貰ったものと同じようなリボンも掛かっている。 「今度の日曜に一般のお客さんに販売するんですよ。毎年完売してしまいます」  今日は亮さんはいないのかな、つい探して見るが彼の姿は無い。 「あと、こちらも昨日お見せしましたね、水田の苗です。今から2年生が田植えをするんですよ」  昨日の四角いパレットにギッシリの綺麗な苗が並べられている。今からなんだ。 「拓海くん、おはよう!」  その声に振り向くと昨日の亮さんだった。今日もニコニコとこっちを見ている。長靴をしっかり履いて、今日は亮さんも麦わら帽子を着用だ。 「亮さん、おはようございます」 「拓海くんは今日も見学なんだね、僕らはこれから田植えの実習だよ」 「へぇ、良いなぁ」  俺もやってみたいな。亮さんのクラスメイトらしい人達が準備で忙しく動いている。 「拓海くん、良かったら一緒にやろうよ!先生、良いでしょ?」  亮さんが傍らの中川先生を見た。 「そりゃ良いけど拓海くんは大丈夫かな?」 「はい、ぜひ!」  やった!田植えを経験させて貰える。 「高石くんはどうしますか?」  先生は相変わらずオドオドの挙動不審の高石にも聞いている。 「僕はいいです…」  消えそうな声でそう答える。側の親父さんが大きく溜息をついた。 「すいません、先生、こいつは良いですわ」  親父さんは高石を少し離れた所に連れて行った。 「おじさん、行ってくる」 「おう、頑張ってこい」  学生服の上を脱いでおじさんに渡す。亮さんが長靴を用意していてくれた。それに履き替えたら麦わら帽子も被せてくれる。 「よし、準備OK。行こう拓海くん」  呼んでくれる亮さんの後を追った。
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