63人が本棚に入れています
本棚に追加
「結局泥だらけだな拓海、楽しかったか?」
隆成おじさんが聞いてくれる。俺はもちろんと答えた。白いワイシャツには大分泥がはじいてしまっていたが、そんな事は気にならないくらいとても楽しかった。
「あの後、もう一人の見学者の子は帰っちまったらしいぞ。どうやらあの父親に無理やり連れて来られたらしい」
「そうなんだ」
確かになんか嫌々って感じだったもんな、あの高石ってヤツ。
「どんな家にも事情はあるんだろうがな。それより拓海は知り合いも出来たみたいだな、絶対他の科に行くなとか念を押されていたな」
亮さんと田代さんだ。田植えは殆どこのふたりが中心になって始まって、中川先生が隆成おじさんと話をしている間に終わってしまった。30人くらいの人数で手植えなのにみんなテキパキしていて、広い水田が本当にあっという間。半端ない手馴れ感だった。
それでも田植え初心者の自分にも分かるようにと、色々気を使って作業してくれた何人もの先輩達。初めての田植えは本当にとても楽しかった。
「あとは勉強を頑張る、やっぱりあの高校が良い」
「そうだな、頑張れ拓海」
お土産にって産みたての卵まで貰ってしまった。きっとばあちゃんが喜んでくれる、食べるのが楽しみだ。
「美音はどうしただろうな」
それは気になる。でも父ちゃんが一緒だからそこは安心だ。
「拓海、腹減ったろ。飯食って帰ろう」
そういやもうお昼を過ぎている、確かに腹が空いた。
「好き嫌いないか?トンカツとかエビフライとか好きか?」
「はい、大好きです」
「よし、あそこに行こう」
さっき子豚達を見たばかりなのにトンカツは何かな。
でも、あとからおじさんに聞いたけど、わざとそういう物を食べさせようと思ったんだって。ひょっとして、俺が豚肉を食えなくなったら可哀想だって。
大丈夫、俺はそこまでヤワじゃない。でも、おじさんの気使いは嬉しい。
おじさんが車を走らせる。車は6号バイパスから鹿島街道という幹線道路に入った。賑やかな通りの大きなレストランに着く。
ちょっと泥のついたシャツを隠すように学生服を着て、おじさんの車を降りた。
かつ丸 30cm越えの大海老フライ
かつ丸 厚切りとんかつ
食べたい(笑)
最初のコメントを投稿しよう!