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「拓海、ただいま!」
笑顔の美音が部屋に入って来た。美音の方も学校見学は上手く行ったかな。
「おかえり、どうだった?」
「うん、楽しかったよ。三杉先生が待っててくれてね、学校を色々案内してくれてたの」
あの三杉先生か。美音に入れ込んでくれてる様子はありがたいって父ちゃんが言ってたけど。
「父ちゃんは?」
「今日は隆成おじさんが夕方来るから、先にお風呂に行くって」
晩御飯はきっと賑やかだ。
「それでね、美術室にはあの学校の歴代の生徒がコンクールに入賞した時の図録があってね。お母ちゃんの絵も写真で収蔵されてたの、すごく素敵な絵だったよ」
「そうか、良かったな」
自分と同じ年頃の母ちゃんの絵か、そんなものが残っているのはすごいな。
「拓海にも見せたかった。シャボン玉が描いてあったんだけどその色使いがとても素敵だったの。小さな男の子と女の子が描かれていて、とても暖かくて幸せそうな1枚だったのよ。あんな絵が描けたら良いなぁ」
「描けるさ、その為に勉強するんだろ?」
「うん、頑張る」
大丈夫、お前は母ちゃんの娘だ。血の繋がりなど無くても母ちゃんの絵の遺伝子は、全部美音が受け継いでいるようなもんだから。
「あ、同じ年度に初音先生と秋風おばちゃんの絵も収蔵されてたよ。お二人の絵もそれぞれ素敵だった」
画家の初音先生はともかく、秋風おばさんは18禁のBL漫画家だって聞いてる。絵の腕前はその頃からすごいんだ。
「今から着替えておばあちゃんを手伝うんだ、拓海は?」
「手伝うって言ったら勉強してろって言われた」
俺は台所では美音程役に立たんし。
「分かった、拓海も頑張ってね」
美音が自分の部屋に行った。
さっき、全然吃らなかったな。自覚はないだろうけど、好きな物に夢中になってる美音はしっかりした言葉を話す。本当に楽しそうだ。
絵が美音に力を与えてるんだ。
俺も負けてはいられない。
机に向き直りながら、人知れず気合いを入れ直した。
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