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隆成おじさん達が来たよと美音が呼びに来た頃には、窓の外が真っ暗になっていた。いつの間にこんな時間だったんだ。全然気が付かなかった。
階下に降りていくと、もうみんなが揃っていた。
「よお拓海、お疲れ様」
おじさんと父ちゃんは、ダイニングテーブルでビールを飲み始めていた。
秋風おばさんはウチのばあちゃんと美音と一緒にリビングのテーブルに食事を並べてる。すぐ傍に山岳と春風が座っていた。
「おじさん、今日はありがとうございました」
「うん、良かったな」
傍にいる父ちゃんもなんか嬉しそうだ。
「拓兄、南農受けるんだって?来年からずっとここに住むんだよね!」
山岳は隆成おじさんから、今回は俺が学校見学に来たんだから邪魔するなと言われて遊びには来ていなかった。この前の春休み以来だ。
「うん、受かるように頑張ってるとこだ」
「みぃちゃんもだよね?」
「うん」
二人で頑張っている。
「それにしても美音が北央とはね、最初聞いた時は本当に驚いたわ」
秋風おばさんが大皿盛りのオードブルをテーブルの真ん中に置く。そして春風の脇に座った。
「あのね秋風さん、私秋風さんの17才の頃の絵を見せて頂きました」
美音が俺の隣に座った、温かいお茶も持ってきてくれた。ばあちゃんも来てみんなで頂きますだ。
「私の絵?」
「はい、秋風さんとうちのお母ちゃんと初音先生がコンクールで入賞した絵です。学校の美術室の図録にありました」
「え?あの時のコンクールの入賞作って図録になってるの!?やっだ〜恥ずかしい!!」
おばさんも知らなかったらしい。
「はい、年度毎になってました。どの絵もとても素敵でした。特に秋風さんの絵は黒猫の毛並みが本当に素敵で、とても可愛かったです」
「ふふ、ありがとう。でもねあの時の洸の絵は本当に素敵だったわよ。あんな透明感のあるシャボン玉も優しい童画のような子供達も本当に洸らしくて。正直、特選の初音君の作品より洸の絵に嫉妬したわ」
そうなんだ、秋風おばさんが嫉妬するほどの若い頃の母ちゃんの絵か。やっぱり実物を見たかったな。
「本当に実物が見てみたいです、今はどこにあるのかなぁ」
「うちの三階」
え?ばあちゃん?
「洸の『残された憧憬』なら私達の部屋よ。私が気に入って額装して飾ってある。あとで見に行って来なさい」
そんな所にあったんだ、美音がもうソワソワしている。
「おばあちゃん、今見てきて良い?」
我慢出来ないらしい(笑)
「あらいいわよ、行っておいで」
お箸を置いて一旦ご馳走様だ。足早の美音を追い掛ける。
三階まで一気に駆け上がった。この家には階段用のリフトがあって、子供の頃はよく遊んだけどゆっくり過ぎて急ぎの時は物足らない。
三階に着いてばあちゃん達の部屋を開けると、大阪のばあちゃん達の部屋と殆ど変わらないゴージャスな家具の数々。大阪もだけど、子供心にばあちゃん達の部屋は暴れちゃいけない場所のひとつだった。父ちゃんにケツを叩かれる。
「お邪魔します」
絵はどこかと美音がキョロキョロしてる。
あ、あった。壁の一番目立つところに美音のスケッチブックより大きな絵だ。
「わぁ」
いっぱいの綺麗なシャボン玉とその中を駆けていく小さな女の子、その先には腕を拡げて待っている笑顔の男の子だ。
俺は絵の事は分からないけどなんかすごく優しい。このシャボン玉のひとつひとつが夢の様な七色に輝き、透き通っている。それに包まれる二人の幼い子供が本当に幸せそうな絵だ。
「大分色褪せたな」
父ちゃんが俺たちの後ろに立っていた。俺らを追って来たんだ。
「元々の絵はもっと綺麗だったぞ。お前達に見せたかった」
「お父ちゃん、この子達はお父ちゃんとお母ちゃんなのかな」
美音が問う。俺もそう思ったけど。
「ああ、そうだ」
やっぱり。あの幼い頃の父ちゃん達の写真にそっくりだ。
「優しい絵だね、お父ちゃんとお母ちゃんそのものだわ」
「そうか」
父ちゃんは笑って右腕に俺、左腕に美音を抱き寄せた。
相変わらず温かくて大きな腕だ。スキンシップが苦手な俺も、父ちゃんの大きな腕は好きだ。
「お父ちゃん、私頑張るね」
「おう」
俺も頑張る。
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