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準備をして、私と櫂が一足先に家を出た。家の鍵は美音に預けたし、あっちは心配無しね。
問題はこっちか。
私があの家を買った時は間に不動産屋が入っていたから、あの頃孝蔵だった莉緒菜は私が女だからとバカにされないようにって、よく商談に付いてきてくれた。
今回はどうなのかしら、まずはあの土地を売る気があるかどうかだわね。
「母さん、父さんはどう言ってた?」
「静かな住宅地だし、何よりも住み慣れている場所だから出来ればそこが良いねって言っていたわ」
「そうか、父さんも賛成か」
「少しくらい不便でも買い物に困る程でもないし、何よりも美音も拓海も学校に通い易いからね。凪紗と真也が通う予定の小学校も近いわ」
櫂と洸が通った小学校だもの。あの頃は洸の方が大きくて、二人が手を繋いでいるとまるで姉と弟みたいで可愛かったわ。櫂には言えないけど。
「莉緒菜が同じ商店街だからあそこの御主人を知っているの。前に今の家を買った時には間に不動産屋が入ってたから割とすんなりだったんだけど、今回は違うから莉緒菜が来るって」
「そうか」
「面白くない顔しないの、あれでもあなたを心配しているのよ」
「知ってる、だから嫌なんだ」
櫂?
「結局師匠はいつだって俺を心配しているだろ、こんなんじゃいつまで経っても俺はあの人を越えられない」
あらま、そういう事ね。
「仕方ないでしょ、お師匠様なんだから」
「年取ったらあそこの夫婦は俺が面倒を見ようと思ってるのに、これじゃいつまで経っても俺の言う事なんて聞かないだろ。いい加減大人しくしてて欲しい」
なるほど。
孝蔵、あなたの弟子教育は間違ってなかったみたいよ。櫂は本当に師匠思いのいい息子よ。
「そろそろ一言言わなきゃならんと思っていたところだよ。気がついたらファムと外国とかに行かれた後だったなんてたまらんからな。母さん、今の話は師匠には黙っててくれ」
「はぁい」
「言う時には俺が言う、どんなに暴れても言うことを聞いてもらうから」
暴れるより泣くんじゃない?櫂を投げ飛ばしながらね。
「本当に黙っててよ」
念を押されてしまった。うん、孝蔵…莉緒菜には言わないわ。
まぁ一筋縄では行かないでしょうけどね、全く本当に似た者師弟なんだから。
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