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実験棟にしばらく居て、亮さんから話も聞いた。
亮さんの家が花卉農家は知っていたけど、少しだけある梨園の方も秋になると沢山の梨が成るという。
「いわきの梨は有名なんだよ。うちは小粒の幸水とちょっと酸味のある豊水って種類をやってる。昔は梨狩りが出来るくらい大きな果樹園だったけど、うちの親父の代からは花卉中心。今はじいちゃんが趣味で細々と自分ちと親戚分を作ってる感じだ。僕も手伝っている」
俺がいわきの梨を食べた事が無いと言うと、秋になったら自分が収穫したその梨を大阪に送ってくれるという。
俺が楽しみにしてますと言うと、亮さんは嬉しそうに頷いていた。
「こっちに住むようになったら遊びにおいでよ」
「はい、必ず」
高校合格後の楽しみがどんどん増えていくな。ますます頑張らないと。
「おーい、拓海」
隆成おじさんが実験棟に入ってきた。浜田さんも一緒だ。
「はーい」
結構時間が経っていたな。亮さんにくっついて廻って、もう2時間近くか。
「浜田さんに色々聞いてたんだ。お前のうちの土壌を入れ替える時は浜田さんが相談に乗ってくれるって」
あれ、大事に。
「すいません浜田さん、なんかご迷惑になってませんか」
「いや、全然!農作をやりたい拓海くんをお父さんもおじさんも、ご家族みんなで応援してるっていうからなんか俺まで嬉しくて」
浜田さん、いい人だな。
「だよね、今どき農家になりたい子供を応援する親なんて珍しいもんね」
亮さんも言う。
「お前も南農行く時親父に反対されてたもんな、そんな甘いもんじゃないって」
「まぁね、今でも反対してるよ。僕は公務員になれって」
花卉農家の親父さんに反対されているのか。
「それでも僕は花を作りたいしじいちゃんの梨園も守ってあげたい。自分に出来ることをやって父さんに納得してもらうよ」
ウチとはえらい違いだな。ウチは俺たち兄弟がやりたい事をなんでも、父ちゃん達もばあちゃん達も一生懸命にサポートしてくれる。
俺たちはみんな出生は様々で、特異な経緯であの家に集まった血の繋がらない兄弟だけど、父ちゃん達大人が俺たちみんなを大事に愛して育ててくれた。
人外の育ちの俺だって、その愛情は分かる。
だから俺も父ちゃん達を大事にしたいんだ。俺が決めたこの進路は、俺が家族と何より自分を幸せにする為の進路だ。
隆成おじさんと隣のいちご狩りのハウスに移動する。
「あ、拓海」
美音がいた。春風も一緒だ、春風は小さな両手に一段と大きく見えるいちごの箱を持っている。
「パパ、ママのいちごだよ。見て、はるが摘んだの!」
その箱を誇らしげに隆成おじさんに見せる春風だ。
「お〜春風はすごいな。よし、パパが持ってやるからもっといっぱいママに摘んで帰ろ」
「うん、パパ!」
春風と隆成おじさんが手を繋いでいちご狩りを続ける。
「美音は摘んで無いのか?」
「うん、拓海が来たら一緒に摘もうと思って。春風ちゃんの方を見てたの。ちょっとは食べたよ」
「山岳は?」
「あの列、殆ど一人で食べてる」
美音の示す先に、黙々といちごを摘んでは食べる山岳の姿が。いちごのヘタを入れた練乳カップの隣の皿部分がもう山盛りだ。
「なるほど」
前に来た時も俺と一緒にあんな調子だったな。ここのいちごはそのぐらい美味い。
「じゃ、父ちゃんとばあちゃんにお土産を摘んでいこうな」
「うん!」
二人で一緒に美味しそうないちごを摘みだした。時々は口に入れる。
うん、やっぱりこっちの方が甘みがしっかりしてるな。
使う用途に応じてのいちご栽培か。単価も変わって行く訳だ。きっと作物によってそんな事がいっぱいあるんだろう。
色んな事を考えながら、俺はいちごを摘み続けた。
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