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十分にいちご狩りを楽しんで、父ちゃん達へお土産も買った。
「妹さん、楽しかった?」
亮さんが笑顔で見送りに来てくれた。前回のカーネーションの事があるから、美音も笑顔で挨拶している。
「あの…良かったらお名前を教えてくれる?僕は中島 亮です」
「あ、はい。出雲美音です」
「美音ちゃんか、よろしくね」
亮さんが右手を差し出し、美音がちょっと躊躇いながらその手を握り返す。
チリ…ッ
ん?なんだ、今の?胸の奥でなんか音がした。何かが一瞬焼けるみたいな嫌な感触だ。
「それじゃね、拓海くん、秋を待ってて。梨を送るから」
「拓海くん、またな」
見送ってくれた亮さんと浜田さんに手を振って隆成おじさんの車が発進した。
席順は朝と同じく助手席には山岳、俺と美音は春風を挟んで後部座席だ。
車に乗ると同時に、春風は美音の膝で眠ってしまった。
「美音、これ掛けてやれ」
俺は自分のNIKEのジャケットを脱いで美音に渡す。春風のヒラヒラのワンピースがちょっと寒そうだ。
「うん」
そっと春風に俺のジャケットを掛けてやる美音だ。
春風の背中に置かれた美音の右手を見る。小柄な美音に相応しい可愛い小さな手。
さっきこの手が亮さんと握手したのを見たら、なんかこう…胸の奥がチリッとした。なんだ、あれは?
ふと、美音のその手に自分のデカい手を重ねて見た。
そんな俺を見て、美音がいつもの様に優しく笑う。そして俺の手を握り返してくれる。
良かった、もう俺の胸の奥はなんでも無い。
「楽しかったね」
そう言う美音に俺はうんと答え、家に着くまでずっと美音のその右手を握りしめていた。
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