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その日のうちに、俺と美音の荷物を用意されていた宅急便の箱に詰めた。
予定では明後日に父ちゃん達と帰る予定だったけど、新幹線で帰る事になったから一日早い帰宅だ。
「拓海これも」
美音の絵の具のセットだ。スケッチブックが異様にデカいから、ダンボールも一番大きいのになってしまったのでもうなんでも余裕だ。
「あとはないか?」
「うん、大丈夫」
ばあちゃんに封はしないでと言われたのでそのままリビングに降ろす。
「ばあちゃん、これお願いします」
「はい、そこに置いてね。大阪にお土産を買ってあるから今から詰めるわ」
なるほど、俺も美音と一緒に東京で何か買いたいと思ってる。凪紗と真也が喜ぶような物を探したい、出来ればチビ子の分も。
「東京では駅からは出ないんでしょうが色々楽しいらしいからね、はい、お小遣いよ」
「え?良いよ。母ちゃんから貰って来た小遣いも殆ど使ってない」
ここは店が遠いし、出掛けたついでじゃなきゃ買い物はしなかった。弟達に買って帰るお土産代があれば良いよ。
「お昼ご飯代よ、ちゃんと美味しいのを食べて帰るのよ。美音をよろしくね」
あ、そういう事か。二人だけで昼食も食べなきゃならないんだ。それもワクワクするな。
「うん、分かった」
それを受け取ってポケットに仕舞った。
「まさか拓海達だけで新幹線に乗る事になるなんてね。せめて一度くらい一緒に乗っておけば良かったけど」
「ばあちゃん心配し過ぎだよ、大阪で普通の電車には乗ってるんだから」
阪和線とか市街地に行けば地下鉄にだって普通に乗っている。
「そうだけど、いつまで経っても私には拓海も美音も小さな可愛い孫なの」
そうだったね、本当にばあちゃんってばいつまでも心配症だ。
そういえば大阪の畑でスズメバチが出た時も、じいちゃんが俺と真也の腕を引っ張って必死に逃げてくれたな。多分、まともに走れば俺たちの方が早いと思うけど。
あれもじいちゃんにとって、俺たちはいつまでも小さな可愛い孫なんだよな。
「うん、ありがとうばあちゃん」
本当に大好きなじいちゃんとばあちゃんだ。
二階に上って、部屋で明日の準備をしていたら父ちゃんが来た。
「拓海、これで美音と昼飯を食え」
また小遣いだ、いきなり一万円札。
「さっきばあちゃんにも貰ったよ」
「いいから貰っとけ、どうせチビ組になにか買うつもりだろう」
お見通しだ。それじゃ貰っておこう。
「拓海、美音を頼んだからな。どうにも心配だ」
「うん、任せて」
「人混みはちゃんと手を繋いで移動しろよ。美音はちょっとポーっとしたところがあるから眼を離すなよ」
それは知ってる、何かに気を取られると立ち止まって見入るクセとか。
「うちは長女も次女もなんか妙におっとりしてて天然だから、それがな」
「母ちゃんそっくり」
「それな」
本当に似てるんだよな、三女の凪紗だけは妙にはしっこくてキビキビしてるけど、カナ姉と美音はなんかどこかに天然が入ってる。
だから余計に親父は美音を気にかけているんだと思う。そんな所まで母ちゃんに似なくて良いのにとか言いながら。
俺は美音のそういう所は嫌いじゃない。小さい時から見ているからむしろ可愛い。
「つりは要らんから、残りの金で美音にも何かに買ってやれよ」
そう言って父ちゃんは階段を降りて行った。
東京で何かか。美音の喜ぶものが見つかると良いな。
「拓海、明日の準備できた?」
隣の部屋から美音がやって来た。相変わらずの猫模様パジャマに着替えている。
「うん、あとはこの本だけ。これは自分で持って帰る」
「そっか、私も準備終わったよ」
明日は初めての美音と二人旅だ。
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