63人が本棚に入れています
本棚に追加
駅までは父ちゃんとばあちゃんが見送ってくれた。
入場券まで買って駅のホームまで来てくれた父ちゃん達に思わず苦笑する。
本当にどこまで心配しているんだろうか。ゴールデンウィークも終わり頃の駅だから、上り線はガラガラだ。
「気をつけて帰るのよ、絶対拓海の手を離さないで」
美音の白いキャスケットという可愛い帽子を直しながらばあちゃんが言う。
これは莉緒菜おばさんが美音に似合いそうと持って来てくれたとか。被せた瞬間から美音のお気に入りになった。
「うん、おばあちゃん」
大丈夫だよ、ばあちゃん。俺が絶対離さないから。
「気をつけてな」
到着した特急スーパーひたちに父ちゃんの声に押されて乗り込む。
すぐにドアが締まり、心配そうな顔のばあちゃん達を残し電車が出発した。
「ほら、美音」
ちょっとだけ寂しそうに見える美音の手を繋いで車両に入る。父ちゃんの買ってくれた座席をすぐ見つけて、窓側の席に美音を座らせた。
「寂しいか?」
「ううん、拓海がいるもの。お家にはお母ちゃんとみんなが待ってくれてるし」
俺もだよ。
俺が差し出した右手を美音が握り返した。
「もうすぐ電車から南農が見えるんだ。次の泉駅を出たらすぐだって」
「本当?」
父ちゃんが教えてくれた。電車が泉駅を出たらすぐの山側だって言ってたな。
「あ、見えてきた。あの高台の学校だ」
俺の指差す方を美音が一生懸命見てくれる。普通高校には絶対無いであろう大きな温室が何棟も並んでいる風景。周りに見える木々は果樹が多い。
あの高校に通える日が待ち遠しい。
「受験、頑張ろうね」
「うん」
列車は西に向かって進んで行く。
大好きな家族の待つ大阪へ。
終わり
最初のコメントを投稿しよう!