63人が本棚に入れています
本棚に追加
中学校から帰った拓海が郵便物をポストから持ってきてくれた。すぐ後ろには妹(本当は姉)の美音もいる。
「母ちゃん、昂輝から手紙が来てる」
台所にいた私に拓海がそれを見せてくれた。まだ未開封のエアメイルだ。
私達や夏那への連絡はスマホにメールで来てるけど、これはまだ携帯電話を持たない弟妹達へ。宛名はちゃんと拓海を代表にしてある。
今までも何通も来ていて、写真が簡単にプリントされている物も同封されていた。
「あとでお母ちゃんにも見せてね」
うん、と頷いて拓海が美音を連れて二階に行く。もう帰宅して学習室にいる凪紗と真也にも読み聞かせてくれるのだ。
中身はいつも昂輝の近況。そして弟達を気遣う言葉だ。
写真は荒いプリントばかりだけど、子供達はそれを大事そうに学習室の壁に貼る。もう壁のかなりのスペースが昂輝の写真で埋まっていた。
中学を卒業した昂輝がアメリカに旅立って、もう三年の月日が経っていた。
「拓海の学生服、昂輝のよね」
「そうよ、中学に入学する時に新しいのを買おうと思ったんだけど、拓海がこれが良いって」
夕食のお味噌汁の味見をしていたお母ちゃんを振り返る。
「袖の擦り切れが気になるね、あとで直してあげるから持ってきて」
「ありがとうお母ちゃん」
昂輝も拓海も大人しい方じゃ無いから、当然学生服に傷みはある。それでも拓海は昂輝から譲られたあの学生服に拘りがあるのだ。
そこにエプロンをした美音と凪紗が現れた。
「お母ちゃんおばあちゃん、宿題終わったよ」
「お手伝いに来てくれたの?ありがとうね。じゃあ二人にはサラダを盛り付けてもらおうかな」
美音が頷いて戸棚に行く。美音が人数分の小鉢を出し、受け取った凪紗がテーブルに並べた。
「美ぃ姉ちゃん、どういう風にしようか?」
美音が千切ってあるレタスを綺麗に並べ、その上にトマトやきゅうりなどの切ってある野菜を載せた。最後にマカロニサラダだ。
「うん、分かった」
それを真似して凪紗も盛り付けて行く。
その様子を見てお母ちゃんと私は顔を見合わせて笑う、本当にいつも仲の良い姉妹だ。
美音は中学2年生になった今も相変わらず声が出ない。うちに引き取られた時は7才で、その数年後に2才年下の拓海と一緒に小学校に入学した。ちょうど昂輝と夏那の時と一緒のパターンだ。
美音は私達家族と過ごすうちにようやく笑顔が出るようになったが、どうしても未だに失語症は治らなかった。
それだけ美音の心の傷が深いとかかりつけのお医者様が言う。焦りは禁物と。
それでもそれ以外に不自由は無い。私達家族は美音の言いたい事はちゃんと分かる。
「美音、あとでにゃん太のご飯もよろしくね」
美音が笑顔で頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!