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みんなが食べ終わった食器を片付ける。遅れて食べ終わった夏那がそのまま食器洗いに加わった。
その後で、お母ちゃんが居間でお茶を飲みながら昂輝の手紙を開いた。
封筒の中には、いつもの荒いプリントの昂輝の写真も入っている。場所はニューヨークの天武流道場で、合気道の道着の昂輝は真剣な顔で稽古に励んでいた。
「元気な様ね」
お母ちゃんが言う。お母ちゃんは時々アメリカに行くから昂輝には会っている。アルお父さんももちろん。
全然会ってないのは、私ら夫婦と夏那達兄妹だ。
「おばあちゃん見せて」
気付いた夏那がその写真を手に取って嬉しそうに眺めていた。夏那の中では今でも昂輝は特別だ。
「そろそろ一度帰って来るのよね?手紙にも書いてあるわ」
「うん」
それは既に夏那にも伝わっているのだろう。うちの子供達の中では夏那だけが携帯電話を持っている。ピアノのせいで帰宅が遅くなる時があるので、心配した櫂が持たせた。
「でもまさか、昂輝が向こうの大学に行くと言い出すとは思わなかったわ。てっきりハイスクール卒業後は合気道に専念するのかと」
私は夏那の前にもお茶を置いた。三人で居間のソファーに座る。
「天武流を広げる為にはもっと色んな事を知らなきゃならないって。それも昂輝には修業のひとつなのよね。最終的にはアメリカだけじゃなくて、世界中に天武流を広げる仕事がしたいって言っていたから」
本当に夏那と昂輝はいつも色々な事を電話やメールで話しているらしい。
特別な絆を持つこの二人は、いつもお互いを支えにしながらここまで来たのだ。
「帰って来るのが楽しみね、もう少しよ」
「うん」
お母ちゃんの言葉に夏那が嬉しそうに頷く。確かあと一週間位だろうか。
昂輝にとっての約束の18才だ。
夏那との将来を考えているから、夏那を養女にするのを止めてくれと言い残して言ったうちの長男。
さて、どんな覚悟で帰って来るのやら。
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