後日談① ー洸ー

6/13
前へ
/160ページ
次へ
   その日、私は美音を連れていつもの病院に来ていた。 「こんにちは、美音ちゃん」  大きな病院の神経科に併設された専門科外来。美音はうちに引き取られた少し後からここに通っている。  失語症を専門に扱うこの科の先生は小鳥遊(たかなし)先生。いつも優しい声で話す私と同年代の女医さんだ。 「何かお変わりは無い?」  はい、と美音が笑顔で頷く。少しの雑談の後、先生と美音はいつもの発声の訓練を始めた。  この先生とも、大分長い付き合いになる。  先生によると美音の発声器官には特に問題がなく、声が出ないのは完全に心因的なものだと言うことだ。  幼い美音が心に受けた虐待の傷が、歳月を経た今も癒えない。  
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加