63人が本棚に入れています
本棚に追加
その日、私は美音を連れていつもの病院に来ていた。
「こんにちは、美音ちゃん」
大きな病院の神経科に併設された専門科外来。美音はうちに引き取られた少し後からここに通っている。
失語症を専門に扱うこの科の先生は小鳥遊先生。いつも優しい声で話す私と同年代の女医さんだ。
「何かお変わりは無い?」
はい、と美音が笑顔で頷く。少しの雑談の後、先生と美音はいつもの発声の訓練を始めた。
この先生とも、大分長い付き合いになる。
先生によると美音の発声器官には特に問題がなく、声が出ないのは完全に心因的なものだと言うことだ。
幼い美音が心に受けた虐待の傷が、歳月を経た今も癒えない。
最初のコメントを投稿しよう!