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「美音ちゃん、洸、いらっしゃい!」
マンションを訪ねて行くと、相変わらずの優しい笑顔で美波さんが迎えてくれる。
梅田の駅から割と近いこのマンションは、ハルが勤める会社と同じビル内にある社宅だ。
「こんにちは美波さん、これお土産」
「あら、気を使わなくていいのに」
さっき買ったロールケーキのひとつを手渡す。美波さんちは4人家族だからこれで大丈夫。
「顔を見せてくれるだけで嬉しいのよ、さぁ入って」
美波さんにぴったりくっ付いているのは、今年五才になる息子の冬馬くん。長女のあいらちゃんは金髪でハルにそっくりだけど、トーマくんは黒髪で美波さん似だ。どちらもとても可愛い。
「あいらちゃんはまだ学校?」
「そう、スクールバスで帰って来るの。丁度マンションの傍まで送って来てくれるから本当に助かるわ」
あいらちゃんはインターナショナルスクールに通っている。最初、普通に日本の小学校に入学したのだが、混血の見た目がイジメの対象になってしまった。
学校に行きたくないと泣く娘の為に、ハルが櫂に相談に来た。そして櫂が奔走、無事市内のインターナショナルスクールへの編入を果たしたのだ。
「今はお友達も沢山出来てすごく楽しそうに学校に通っているわ、櫂さんのおかげよ」
「良かったわ」
本当に差別はどこにでも普通に転がっている。この国はまだまだ少数派には優しくない国だ。
「あら美音」
トーマくんが美音の手を引いて遊びに連れて行ってしまった。時々こんな風に会っているから、トーマくんは美音が大好きだ。
「一緒にお絵描きしたいのよね」
リビングの一角に広げられた大きな模造紙。美音にカラフルなマジックマーカーを手渡すトーマくん。
美音が笑顔で絵を描き始めた。
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