籠の中の少女

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 フロアでは男たちが小人数のグループで集まり,互いに険しい表情を隠そうともせず話し込んでいたが,どのグループも第四十五代内閣総理大臣である吉田茂内閣の戦後復興における景気政策について議論していた。  異業種のトップがこれからの商売について難しい話をしている様子は,なにも知らずに見ていたら,金持ちがお互いの懐を探り合いながら談笑をしているようにも見えた。  それでも会話の途中途中に相撲や野球の話が混じることも多く,それぞれ贔屓にしている選手をまるで我が子のように自慢した。  そして一人が葉巻を取り出すと,つられるように一斉に金属製の箱に入った葉巻を取り出しては専用のカッターで端を斬り落とし,大きなマッチで葉巻を炙るようにして火を点けた。  最初に葉巻を取り出した男の指には,大きな金の指輪がいくつも嵌められており,田舎の成金をアピールしているようだった。真っ黒なスーツに黒いハットが特徴の男は,全身を黒と金で着飾っていた。  社交界といっても,そんな田舎の金持ちが集まって商売の話をしているだけで,この場を楽しんでいる者など誰もいなかった。もともと酒もふんだんに振舞われていたが,酔うと暴れる者も多く,いつの間にか酒は控えて家族を同伴するのが定着していた。  何度か気性の荒い二代目同士が慣れない洋酒に酔って喧嘩になりそうなこともあったが,こういった集まりを定期的に設けることで,田舎の企業が東京や大阪といった大都市での商売を円滑に行うことができた。  仕立てのよいスーツに葉巻を咥えた男たちは,それぞれ話すべき相手と話終わると,会場に用意された軽食を摘まみ,見逃した客がいないか会場内を見回した。  まれに財閥のお偉いさんや華族出身者なども顔を出すことがあり,男たちにとっては,少ない機会ながら彼らに会うことも目的の一つだった。
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