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死ぬ前に何が食べたい?
昔、そう恋人に聞かれたとき俺は「牛丼かな。つゆだくがいい」と答えた。
冗談のつもりで言ったのだが、今、実際に地球が終わろうとしている状況を目の当たりにして本当に牛丼が食べたくなったのだから、意外にもあれは本心だったのだ。
今日は朝からずっと、テレビが地球に向かってくる小惑星のことを報じている。
数時間後には地球に衝突するそうで、人類滅亡不可避らしい。
事態はさながら終末。諸外国では暴動やデモが起こっているらしく、日本も例外ではなく”仏像の買い占めと転売”という名前の暴動が起こっているそうだ。
国会でも、財務大臣が「こりゃダメだな」とニコニコしながら失言したため、野党議員からヤジを受けている。追及したところで明日は来ないのに、元気なことで。
そそくさと着替えを済ませ、家を出る。
意外なことに、外は誰もいなかった。きっと、最期くらいは家族と一緒にいようと家にこもっているのだろう。俺には家族がいないからよくわからないが、素敵な人もいるのだな……と考えながら、小走りで牛丼屋に向かっていく。
道が空いていたため、いつもよりも早く到着した。
もしかしたら、こんな状況だからやってないのでは? と心配になったが、ありがたいことに店は開いていた。
中では、不愛想な客が数名、牛丼をはふはふと食らっているようだ。厨房の方から、「いらしゃいませ~」と明るい声が聞こえて、おばちゃんがレジの方に駆け寄ってくる。
「ご注文はいかがなさいますか~?」
「牛丼の大、つゆだくでお願いします」
「かしこまりました~。店内でお召し上がりですか~?」
「”お持ち帰り”でお願いします」
──刹那、轟音が鳴り、頭に重力がかかった。
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