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3 救済
「マリブロン、起きて、起きてったら、風邪をひくわ」
川辺には草子がマリブロンを探しにやって来ていて、眠っているマリブロンを見つけると駆けつけて、声をかけました。
「う、うん、、なんだぁ、だあれ?」
「あなたばかなんじゃないの、なんだって素足を川に入れて眠っているの? もう秋なのよ、十月なのよ」
草子はマリブロンの両足を川から引き上げました。
「こんなにしちゃって、肌も爪も色をなくしちゃってるじゃない」
それからハンカチを取り出してマリブロンの足を丹念に拭いてやり氷のように冷たくなった両足を、猫を抱くみたいに両腕で包みました。
「お、なんだ、そうしじゃねえか? ……ありゃ、もう夕方だぁ」
「なにばかなこといってるの? 学校サボって一体なにしてんのよ? みんな心配してたのよ。鞄とプリント持ってきたから」
「…………」
マリブロンは寝転がったままじっとしばらく草子を見つめました。
——みんな心配してたのよ、草子はそういいましたが、マリブロンはそんな人間は草子以外にいないと思っています。
「な、なによ、わたしの顔になんかついてる?」
「なんでもねーよ。ああ、足の感覚がまったくねぇぞ」
マリブロンは起き上がると草の上を歩いて靴と靴下を脱いだところへゆき、それをはきました。少し大げさに、見ようによっては不機嫌なように。
なにを怒っているんだろう? 草子は思いましたが、もちろんそうではありません。
暖めてもらった両足に草子のぬくもりを感じながら、マリブロンは少し笑っているようでした。
草子はいつも、安らぎをくれます。温かみをくれます。
草子の存在もまた、マリブロンにとっては救済なのです。
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