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6 早朝
翌朝、マリブロンは目を覚ますと、ふふっと笑いました。
ベットの上にひざを立てて、カーテンを開けました。
今日もよく晴れています。
秋の早朝の空気が、道路を挟んだ隣の家や、(ここは二階でしたから)目線と同じくらいの高さにある電線や、その上でグルルッポー、チチチチと鳴くハトやスズメを凛と包んでいます。
マリブロンはあくびをひとつすると、大きく伸びをしました。
それから窓の外を何か眩しいように眺めたあと、またふふっと笑いました。
昨夜の夢があまりにおかしかったのと、心地よかったのがごちゃ混ぜになって、なんだかとてもおかしく感じられたのです。
時計は五時半を指していましたから、いつもより少し早かったのですが、マリブロンはベットを下りることにしました。
そして、七時には空っぽの学校鞄を持って家を後にしました。こちらはいつもよりだいぶ早い時間です。
外にはまだまだ早朝の空気が残っています。家々も、歩いている道も、向こうの林も、遠くに見える山影も、みんな洗いたてのように見えました。
空に浮かんでいる、羊のようにふっくらとした雲は、数十匹の群をなして、透き通った青空の中を渡っていっていました。
マリブロンはそれら全部を眺めながらのんびりと歩いていきます。
なんて気持ちの良い朝だろうと、マリブロンは思いました。
マリブロンはこんな日が大好きでした。
こんないい日にはマリブロンは当たり前のように学校には行かず、イチョウのある羽衣川にいきます。必ずです。
しかし必ずは、今回のことで終わりを迎えました。
マリブロンは真っ直ぐに学校を目指していました。
実際、今日ほど学校に行くことが楽しみであったことはありません。
それは学校に確かめたいことがあったからです。
もちろんヒカルくんのことです。自分のことを好きだといっている男の子がどんな子なのか、とても気になります。
——本当なら、こんなマリブロンの姿は、見ていて気持ちの良いものでした。
期待に満ち、空を見上げる姿なんて、小さな子どものように純真で清々しく目えたはずですし、浮かんでる笑みだってとてもほがらかに感じられたはずなのです。
それらは下手なけしょうと寝ぐせのようなパーマのせいで、みんなだいなしです。だいなしどころか今日はいくぶんか妙でした。
なぜならばこんな不良然とした子が、いかにも面白そうに、空やら電柱やら並木のプラタナスやらを——ときには立ち止まって——眺めているのです。
少しばかり妙に見えてもしようがありません。
ときどき振り返って見る人がいたくらいです。
マリブロンはその視線に気づいていましたが、少しも気にしませんでした。
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