7 ヒカルくんの笑顔

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7 ヒカルくんの笑顔

 教室の扉が少し開いていましたので、マリブロンは右足のつま先をひっかけ、ガラガラと大きく開け、中に入りました。  そして、すでに教室にきて着席している草子のところへいき、声を落としていいました。 「そうし、おはよ。あのよ、日輪光ってどいつなの?」 「おはよう、マリブロン。やけに早くきてると思ったら、そういうこと。ヒカルくんなら窓際の前から三番目よ」 「む、ありゃ、ここからだと頭しか見えないな」  草子は、マリブロンを見ていると心配になりました。 「マリブロン、わたしは今回のことでは彼の相談相手よ。もちろん友達でもある。だからちゃんとしてあげてね。茶化したりしないでね」 「わかってるよ、こういうのはあれだろ。こじらすとめんどくさくなるやつだろ。なんにしたって今はこの通り顔だってわからないんだ。どういう人間か確かめないとな」 「……それは、そうね」  草子は妙に納得しました。マリブロンがいっていることが実に当たり前だったからです。  一限目は古文でしたが、この五十分でマリブロンは日輪光の姿かたちを、そのまぶたにはっきりと焼きつけました。光君の席はマリブロンのすぐ右前でしたので、観察するにはもってこいだったのです。  ヒカルくんの瞳は大きめで澄みきっていました。それに口元にいつも笑っているようなえくぼがあって、育ちの良さを感じさせました。 〈…………〉  マリブロンは、ふーんと少し首を傾げてヒカルくんを見ていました。  二限の数学のとき、ヒカルくんは先生に指名され黒板に数式を書きながら皆に向かって次のように説明しました。 「真は、XY>0の時は(X>0、Y>0)または(X<0、Y<0)。だから、X+Y>0が成り立つのはX>0∩Y>0の時だけです」  数学は得意のようでしたが、マリブロンが気がついたのは、ヒカルくんの身長のことでした。  マリブロンはヒカリくんの身長があろうことか、自分と同じくらいか、もしかしたら低いことに驚きました。 〈…………〉  マリブロンは、目を見張ってヒカルくんを見ていました。  三限四限は男子も女子も体育で、今日は両方体操でした。もちろん授業は別々に進みますが、すぐ隣でしたから、マリブロンはヒカル君の運動神経を、知ることができました。  どうもヒカルくんは運動が苦手のようでした。  とび箱は五段から上は跳べず、マットではひどい尻もちをつき、鉄棒は逆上がりはできたものの、ただの前回りが一回転で精一杯、という具合です。  ところで、マリブロンの運動神経は抜群でした。とび箱八段の回転下りも、マットのバク転も、鉄棒の大車輪も軽くやってのけます。 〈…………〉  マリブロンは、とうとう難しい顔になってヒカルくんを見ていました。
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