7 ヒカルくんの笑顔

2/3
前へ
/12ページ
次へ
 お昼休み、マリブロンはお弁当とイスを持って、草子のもとにいきます。  草子の机の前に、イスを反対向きにして置いて、がにまたで座ります。それから背もたれにほお杖をつくようにして、あきれ顔を草子に向けました。 「おいおい、、いったい何者なんだぁ?」  草子はマリブロンの顔を、少しばかり見ました。いつもの通りのマリブロンでした。草子はため息より小さな、息をつきました。  なんとなく草子の様子が変だなと、マリブロンは思いましたが、このときはなにが変なのかわかりませんでした。  それから草子は、すぐなんでもないように、少しぶっきらぼうにいいました。 「日輪光くんよ。どう? 見たヒカルくんの感想は?」 「……どうってよー、って感じじゃないっすかねー」 「うーん、ぼっちゃまかぁ、そうでもないんだけど、そういう風に見えるかー」 「……そりゃそうだよな、こんなあたしなんかを好きなんてやつぁ、あんなチンチクリンくらいってことなんだろうな」  ガタン!    突然、草子が立ち上がりました。 「ばかなことはいわないで、マリブロン! 彼はチンチクリンなんかじゃないわ!」  草子の眉がもち上がりました。普段、冷静で感情の色を見せない瞳が、怒ったように強い輝きをおびて見えました。少し大きな声でしたので、周りの子も草子を見て一瞬、言葉を失っていました。 「…………」  卵焼きを口に入れようとした手をとめ、マリブロンは口を開けたまま、まじまじと草子の顔を見ました。  草子ははっとして、イスに座り顔をふせました。信じられないことに、その顔は少し赤みがかっています。 「な、なんだぁ、ソウシ? やけにやっこさんの肩を持つじゃないか?」  マリブロンは腑に落ちないようにいいます。実際、草子のこんな態度の意味が、まるでわかりませんでした。 「あ、いえ、ヒ、ヒカル君だけじゃないわよ。あなただって、あたしなんかってことないわ。そりゃ、あなたはかなり変わっているけど、変わっているけど、……いいとこだってたくさんあるわ。……ほら、素顔なんてお雛様みたいに可愛いいし」  草子は非常に慌てているようでした。瞳は落ち着きなくあちこちを見て、顔がみるみる上気し、とうとう真っ赤になります。  草子はなんで自分が怒ったのか、どうして自分が動揺しているのか、自分でもわかりませんでした。  こんなにうろたえている草子を、マリブロンは初めて見ました。 「お、おまえ、ほんとにソウシかぁ?」  マリブロンも顔を赤くしていいました。急にお雛さまみたい、といわれたからです。 「……」 「……」  二人は、なんともでした。  それからは、お互い、なんだか気まずくなってしまい、黙ってうつむきながらお弁当を食べなければなりませんでした。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加