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お昼休み、マリブロンはお弁当とイスを持って、草子のもとにいきます。
草子の机の前に、イスを反対向きにして置いて、がにまたで座ります。それから背もたれにほお杖をつくようにして、あきれ顔を草子に向けました。
「おいおい、やっこさん、いったい何者なんだぁ?」
草子はマリブロンの顔を、少しばかり見ました。いつもの通りのマリブロンでした。草子はため息より小さな、息をつきました。
なんとなく草子の様子が変だなと、マリブロンは思いましたが、このときはなにが変なのかわかりませんでした。
それから草子は、すぐなんでもないように、少しぶっきらぼうにいいました。
「日輪光くんよ。どう? 初めて見たヒカルくんの感想は?」
「……どうってよー、ぼっちゃまって感じじゃないっすかねー」
「うーん、ぼっちゃまかぁ、そうでもないんだけど、そういう風に見えるかー」
「……そりゃそうだよな、こんなあたしなんかを好きなんてやつぁ、あんなチンチクリンくらいってことなんだろうな」
ガタン!
突然、草子が立ち上がりました。
「ばかなことはいわないで、マリブロン! 彼はチンチクリンなんかじゃないわ!」
草子の眉がもち上がりました。普段、冷静で感情の色を見せない瞳が、怒ったように強い輝きをおびて見えました。少し大きな声でしたので、周りの子も草子を見て一瞬、言葉を失っていました。
「…………」
卵焼きを口に入れようとした手をとめ、マリブロンは口を開けたまま、まじまじと草子の顔を見ました。
草子ははっとして、イスに座り顔をふせました。信じられないことに、その顔は少し赤みがかっています。
「な、なんだぁ、ソウシ? やけにやっこさんの肩を持つじゃないか?」
マリブロンは腑に落ちないようにいいます。実際、草子のこんな態度の意味が、まるでわかりませんでした。
「あ、いえ、ヒ、ヒカル君だけじゃないわよ。あなただって、あたしなんかってことないわ。そりゃ、あなたはかなり変わっているけど、変わっているけど、……いいとこだってたくさんあるわ。……ほら、素顔なんてお雛様みたいに可愛いいし」
草子は非常に慌てているようでした。瞳は落ち着きなくあちこちを見て、顔がみるみる上気し、とうとう真っ赤になります。
草子はなんで自分が怒ったのか、どうして自分が動揺しているのか、自分でもわかりませんでした。
こんなにうろたえている草子を、マリブロンは初めて見ました。
「お、おまえ、ほんとにソウシかぁ?」
マリブロンも顔を赤くしていいました。急にお雛さまみたい、といわれたからです。
「……」
「……」
二人は、なんともチグハグでした。
それからは、お互い、なんだか気まずくなってしまい、黙ってうつむきながらお弁当を食べなければなりませんでした。
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