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坂の下商店の自販機前で理玖翔は待っていた。
「ほらよ」
理玖翔は青い350mlの缶を放った。私は慌てて手を出してキャッチする。
少し走っただけでも滝の様に汗が流れていた。今年は猛暑だ。私の腋毛は汗で蒸れているだろうな。
「どういう風の吹き回し?」
私は缶を額に当てながら聞いた。これでさっきのことチャラにしようって魂胆か?確かにこの冷たさは有難いけどさ。
理玖翔は短髪から流れ落ちる汗をTシャツの袖で拭い、缶を傾けた。ごくごくと飲み込む度に喉仏が上下する。なんか機械みたいで面白かった。
ふーと長いため息を吐くと理玖翔は真面目な顔で言った。
「アキちゃん・・・アキ先輩のことなんだけどさ・・・」
私は少しがっかりした。アキ先輩の話か。
「その後の話、聞いた?」
アキ先輩は私達の4つ上の先輩で、理玖翔のお姉ちゃんのねねちゃんと同級生。小学生の頃、私と理玖翔、ねねちゃん、アキ先輩ーー当時はアキちゃんと呼んでいたーーはよく遊んだ。小学校低学年の私達がお姉ちゃん達に付いてまわってただけだけど。とても優しいお姉ちゃんだった。
アキ先輩は昔から美人だった。子供の私でもハッとする様な美少女だ。二重瞼で大きな瞳、サラサラのロングヘアーに透き通る白い肌。すらっとした手足。同じ島で育って、同じもの食べて、同じ太陽を浴びているのに、この違いはなんなんだ?
それに頭も良くて島では珍しく本土の私立中学に通っていた。そこでもやっぱり一番の美少女で、入学1週間でほとんどの男子はアキ先輩に恋をして振られたらしい。大手モデル事務所のスカウトが校門前で待ち構えていたとかいないとか、伝説をあげたらキリがない。
私が男でもやっぱりアキ先輩のことを好きになると思う。うん。はっきり言って私はアキちゃんに憧れていた。大好きだった。身近にこんなアイドルの様な美少女がいて、それでいて私の友達で、自慢だった。
だけど4年前、つまり前回の御毛子にアキちゃんは選ばれた。私が10歳、アキちゃんが14歳の時だ。
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