プロローグ

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プロローグ

「おお!良く生え揃っておるわ」 町会長の牧田のジジイが言う。 「ほんとじゃほんとじゃ。立派なもんじゃ」 坂の下の小沢のジジイも覗き込んできた。 「悟くん、村長、こんだけ生えりゃぁ十分じゃろう」 牧田のジジイがさも自分の手柄のように報告する。 どれどれ、と“悟”こと神木(かみき)Jr.と村長も覗き込んでくる。 正直気持ちが悪い。  平均年齢70近いジジイ達が私の腋の下を見て「ほうほう」とか「ふむふむ」とかフクロウのように感嘆している。どいつもこいつもアホヅラだ。か弱き14歳の乙女の腋の下を、しかも腋毛を!タダで見られるなんてありがたいと思え!冥土の土産じゃ、そのままポックリ逝ってしまえ! 私は笑顔のまま心の中で毒づいた。  神職である神木Jr.が私の顔を見てニコリとする。悪寒が走る。 「これだけ生えていれば大丈夫でしょう。(ひかる)ちゃん、この1年良く我慢したね、後1週間だから頑張ろう!」 何が光ちゃんだ、馴れ馴れしい。私は引き攣った愛想笑いを返す。  神木Jr.はこの島にある神木(かんのき)神社の跡取り息子だ。 真っ黒い顔に白い歯が浮いている。40過ぎまで本土で遊び暮らして、去年島へ戻ってきた。サーファー気取りで自分のことを爽やかなイケメンだと勘違いしている。あげく島の女子中学生は純粋無垢だと信じている前時代的な人間なのだ。  良かった良かった間に合った、これで安心じゃ、とジジイ共は口々に言いながら私の腋毛を品定めしている。 私は集会所の隅で携帯ゲームをしている理玖翔(りくと)に助けを求めるべく視線を送った。だが理玖翔は私の視線に気づいているはずなのにゲームに集中している振りをする。 ・・・クソ、理玖翔の奴無視しやがって、相変わらず嫌な奴だ・・・ 私の上げ続けている両腕はプルプル痙攣してきてもう限界だ。 それに私の心も、もうそろそろ限界を超えそうだったーー。 ■ 斉藤光 14歳 御神毛祭(ごしんげさい)まで残り1週間 ■
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