9. 灯火が消えるころに

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 突然、腕を引かれて呼び止められる。振り向く間もなく、手繰り寄せられ近づいた耳元から。 「俺、青砥さんのことが好きなんだ」  少女漫画でしか聞いたことのないセリフが、現実に降ってきた。 「えっ、ええっ⁉︎ あ、あの……えっと」  ない語学力が、さらになくなる。  好きになってとお願いはされたけど、その藤春くんから告白されるとは想定外すぎる。後ろから肩を抱き寄せられている状況も、頭の中が真っ白になりそうだ。  そのままでいいから聞いてほしいと、藤春くんは続けて。 「こんなに誰かに惹かれたの、初めてで、どう言ったらいいか難しいけど。青砥さんのこと、もっと知りたい。笑ってる顔も見たいし、一緒にいたい」  胸の奥がキュッと狭くなって、ドキドキしている。  地味だと嘲笑(あざわら)われて、汚いと(けな)されていた私が、誰かに好かれる日が来るなんて。今まで夢にも思わなかった。  肩へ巻き付く手をそっと掴み、まぶたを閉じる。  この涙の意味が、やっとわかった。  私は、藤春くんのことが好きなんだ。これほど愛おしいと思い、離れたくないと心が叫ぶ。  だから、この気持ちは押し殺さなければならない。 「わ、私は……やっぱり、鶯くんを裏切ることは、できません」  大切な家族であり、唯一の心の支えだった鶯くんを、一人にするわけにはいかない。 「それでいいよ。ただ、知っておいてほしかっただけ。どうせ死ぬなら、後悔したくないし」  近すぎる心臓の音が、花火のように響いている。  もしも、藤春くんが、本当に十七歳まで生きられないとしたら。  私はこの選択に、悔いはないのか。  何も言わないまま、終わってしまっていいのか。 「……私も、藤春くんのことは……好き、です」 「え、」 「で、でも、それは、友達としてです」  ーー最低だ。  鶯くんと離れられないと言いながら、藤春くんを突き放すことさえできない。  抱きしめる腕が強まって、藤春くんの匂いでいっぱいになる。 「……不意打ち、ずる。でも嬉しい」  少しでも振り向けば、目と目が合って唇が触れそうな距離。緊張で石になったみたいに、動けない。
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