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突然、腕を引かれて呼び止められる。振り向く間もなく、手繰り寄せられ近づいた耳元から。
「俺、青砥さんのことが好きなんだ」
少女漫画でしか聞いたことのないセリフが、現実に降ってきた。
「えっ、ええっ⁉︎ あ、あの……えっと」
ない語学力が、さらになくなる。
好きになってとお願いはされたけど、その藤春くんから告白されるとは想定外すぎる。後ろから肩を抱き寄せられている状況も、頭の中が真っ白になりそうだ。
そのままでいいから聞いてほしいと、藤春くんは続けて。
「こんなに誰かに惹かれたの、初めてで、どう言ったらいいか難しいけど。青砥さんのこと、もっと知りたい。笑ってる顔も見たいし、一緒にいたい」
胸の奥がキュッと狭くなって、ドキドキしている。
地味だと嘲笑われて、汚いと貶されていた私が、誰かに好かれる日が来るなんて。今まで夢にも思わなかった。
肩へ巻き付く手をそっと掴み、まぶたを閉じる。
この涙の意味が、やっとわかった。
私は、藤春くんのことが好きなんだ。これほど愛おしいと思い、離れたくないと心が叫ぶ。
だから、この気持ちは押し殺さなければならない。
「わ、私は……やっぱり、鶯くんを裏切ることは、できません」
大切な家族であり、唯一の心の支えだった鶯くんを、一人にするわけにはいかない。
「それでいいよ。ただ、知っておいてほしかっただけ。どうせ死ぬなら、後悔したくないし」
近すぎる心臓の音が、花火のように響いている。
もしも、藤春くんが、本当に十七歳まで生きられないとしたら。
私はこの選択に、悔いはないのか。
何も言わないまま、終わってしまっていいのか。
「……私も、藤春くんのことは……好き、です」
「え、」
「で、でも、それは、友達としてです」
ーー最低だ。
鶯くんと離れられないと言いながら、藤春くんを突き放すことさえできない。
抱きしめる腕が強まって、藤春くんの匂いでいっぱいになる。
「……不意打ち、ずる。でも嬉しい」
少しでも振り向けば、目と目が合って唇が触れそうな距離。緊張で石になったみたいに、動けない。
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