9. 灯火が消えるころに

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 藤春くんの方を見れなくて(うつむ)いていると、抱きしめられていた手がゆっくりと離れた。正確には、藤春くんが引き離したのだ。 「アンタどうかしてる。そんなの、ただの洗脳でしかない。縛り付けてるだけだよ」  涙目になった私を、赤と橙の空が照らす。手を引かれた体は、鶯くんからするりと簡単に抜け出した。  動悸がおさまらない。こんな(けが)れた手を、藤春くんに触らせてしまった。  ハァーーと大きなため息を吐いて、鶯くんがつぶやく。 「呪いを解くためなら、他に代わりなんてたくさんいるだろ?」  藤春くんが答えるより早く、鶯くんは私の足を見て。 「僕には、茉礼しかいない。茉礼を守ってあげられるのは、僕だけなんだ」 「おいで」と手を差し伸べる。下駄の鼻緒(はなお)で指が擦れていたの、気づいていたみたい。  チラリと藤春くんを見て、「ごめんね」と口を動かす。声には出さないで。  これ以上、藤春くんを巻き込むわけにはいかない。私が感情を押し殺せば、全部解決する。  黙って手を取ると、鶯くんはひょいっと私の体を抱き抱えた。  その時、パシャリと景色が光った。カメラのフラッシュのようなものは、一瞬で消えたけど。辺りを見渡しても、花火を撮影している人どころか、ほとんど人の姿はない。  あの光がなんだったのか、後日思い知ることになるとはーー。
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